ケニア最大のバレエ教室で輝く可能性~才能は新たな世界を切り開く~

ケニア、あるいはアフリカの『バレエ』と聞いてもピンと来る日本人はほとんどいないかもしれない。未だにアフリカといえば伝統的な民族が昔と変わらぬ生活を送り、ケニアといえばマサイ族が槍を携えジャンプの高さを競っている、というイメージを持つ方も多いだろう。しかし、最近ケニアではプロのバレエダンサーが教えるバレエ教室が開かれるや否やこれまで見出されてこなかった才能が次々と現れてきており、スラムから英国の名門バレエ教室に入学したニュースは海外メディアでも大きく報道された。ケニア最大のバレエ教室で、バレエの可能性を届け続ける現場を取材した。

ケニア最大のバレエ教室、『ダンスセンターケニア』

ダンスセンターケニアは高級住宅街で有名なカレンで三年前に設立された。当初は生徒が50人にも満たなかったが、その後急速に拡大を続け、現在では3つのダンススタジオ、500人を超える生徒が集まり、その内30人がスポンサーの支援や奨学制度を得てダンスに励んでいる。

プロのバレリーナで同教室の講師でもあるクーパー・ラスト氏はバレエをこんな言葉で表現する。

「バレエには希望を与える力があると信じています。バレエは規律、自らを愛すること、そして『堂々と立つこと』を教えてくれます」

ダンスセンターケニアで指導するラスト氏。現役のプロバレリーナでもある。

ラスト氏は20世紀最高の振付師として名高いジョージ・バランシンが設立したスクール・オブ・アメリカン・バレエやハリッドコンサバトリーバレエ学校でバレエを学び、卒業後はアメリカのバレエ劇団を三つ渡り歩き、世界中でバレエの持つ技術と美しさを伝え回った。バレエ教育にも関心があり、いつかアフリカに来たいと思っていたが、現地に足を踏み入れたのはアフリカ教育プロジェクトの一環でケニアのキベラスラムにあるアンノズアフリカというバレエ教室に来た時だった。

当時からキベラでケニア人講師がバレエを教えるプログラムはあったものの、プロのバレリーナであるラスト氏がボランティアとしてキベラに来ると聞いた時、生徒たちは飛び上がって喜んでいたという。ケニアのバレエダンサーの可能性に惹き付けられたラスト氏は2015年に同センターを設立。現在ではダンスセンターケニアとアンノズアフリカは連携しており、毎年10名ほどの優秀なダンサーが奨学制度を利用し、スラムから週に二度ラスト氏の下でトレーニングを受けている。

「私たちは三種類の奨学制度を提供しています。ブロンズタイプは週に一度教室で指導を受けられるもので、5歳から6歳くらいの子供のための制度です。子供のうちは専門的な技術指導よりも先ずバレエに興味を持ってもらうことの方が大切だからです。シルバータイプは週に二回トレーニングを行います。奨学生のほとんどはキベラの子供たちですね。水曜日と土曜日に来て、実技試験も行います。ゴールドタイプの奨学生はフルタイムで指導に当たります。これらの奨学制度に加え、アメリカの団体であるアーティスト・フォー・アフリカから奨学金を得ている生徒もいて、授業料や住居費、移動代などに使用されています」

世界を駆け巡った現代版『シンデレラストーリー』

ダンスセンターケニアが注目を集めたのは、スラム出身の男性ダンサーが英国名門バレエ教室に入学を果たしたことがきっかけだった。

ジョエル・キオコさんは17歳までクウィンダスラムで過ごしていた。13歳のときにスラム近くの小学校でラスト氏がたまたま彼の踊りを見た時、その才能に気づくには時間はいらなかった。ショートダンスではあったものの、ラスト氏はその姿を「美しく、正に宙を舞っていた」と表現する。キオコさんはバレエの技術やステップはおろか「バレエ」という言葉を聞いたことすらなかったが、ラスト氏の熱心な誘いもあり、ダンスセンターケニアのバレエクラスに通うようになった。

「キオコは三年前にトレーニングを始めてから三回アメリカに訪問し、カロリーナバレエ団で6ヵ月間学びました。その後も研鑽(けんさん)を重ね、ケニア人で初めてイングリッシュ・ナショナル・バレエスクールにフルスカーラーシップで入学しました。」

イギリスでロイヤル、セントラルと並ぶ名門バレエスクールでは日常的に世界的なバレエダンサーと触れ合う機会があり、卒業後の就職率は100%近い、正にプロへの登竜門だ。このシンデレラストーリーは世界に衝撃を与え、CNNやガーディアン、アルジャジーラといったメディアがケニアのバレエ教室で起こった『奇跡』を取り上げた。スラムで見出された才能は、現在海を渡って人々を魅了し続けている。

ケニアバレエが切り開く可能性

ダンスセンターケニアでは一年間で三期の講習を提供しており、全てのクラスで一期毎の講習料が10,000シリングほどになる。

「裕福な家庭からだけではなく、貧しい家庭からトレーニングを受けに来る生徒もいます。彼らにとって授業料は高額である場合も多いので、何とか希望するすべての生徒が授業を受けられるような環境を整えたいと思っています。また、子どものために寄付を行う方々もいます。」

今年の夏にはゴールドタイプの奨学制度を受けている5名の生徒がアメリカに渡り、4週間ほどのトレーニングを受けてきた。キベラスラム在住のパメラさんはその中の一人で、二年前からゴールドタイプの奨学制度を利用している。

「ラスト先生は第二のお母さんみたいな感じですね。バレエで一番好きなのは自由にポワント(つま先立ちで踊るバレエの技法)で踊ることかな。7月にアメリカ渡った経験は最高でした。今思い描いてる夢は、自分も貧しい家庭で生まれ育った人たちを助けることができるようになることです」

同センターの生徒達について、ラスト氏は次のように語る。

「アメリカに着いた時、どの生徒がカレン出身だとかキベラ出身だとかなんて、誰も知りません。私たちはともに踊る一つのチームです。生徒たちにとってダンスは人生そのもので、授業が終わっても踊り続けています。本当のバレエダンサーになりたいなら、週に一度の授業だけでは足りなくて、毎日喜びと共にバレエをエンジョイすることが必要です。そうした子供たちに違いはなくて、誰もが楽しんで、元気いっぱいに、情熱的に踊っています。一人のバレエダンサーとして、生徒たちから学ぶことが沢山あります」

同センターの生徒達は、人種も国籍も家庭環境も多様だ。遠方からバレエを踊るために教室に通い、週末はラスト氏の家に泊まり込む生徒もいる。

「スラムに住む生徒が多くの困難を抱えていることは分かっています。それでも親御さんたちはバレエを続けることにとても協力的です。子供のために栄養の改善やより良い教育環境を与えるためにはどうすればいいかを話し合いながら、親御さんと共に子どもにチャンスを与えられように私達も働きかけています」

生徒同士で柔軟を行っている様子。互いに手を取り合ってバレエに励んでいる。

ダンスセンターケニアでは年に5回ほど講演を行っており、昨年ケニア国立劇場で行われた『くるみ割り人形』では2200人もの観客が集まった。

「ケニアという外国の地で、300年も前の伝統的なバレエに挑戦するというのはとても面白い経験でした。私はケニアが大好きで、アーティストとしても教師としても成長することができました。異なる文化が混ざり合い、一緒になり、バレエが国境の壁を超えさせてくれたのです。生徒たちはバレエを通じて彼らの人生を見出そうとしています。私が経験した様に、バレエが彼らをまだ見ぬ世界へと連れて行ってくれることを願っています」

筆者:RAHAB GAKURU

翻訳:長谷川 将士

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Posted by HasegawaMasashi