ケニア人SEよ海を渡れ、オランダ系IT企業が欧州でシステム開発の機会を提供

AI(人工知能)による人員削減や既存産業の衰退などにより世界的に就職難が進んでいるが、元々失業率の高く雇用が限られているアフリカでは特に深刻だ。毎年大量に労働市場に流れ込む若者はよほど運が良くなければ職にありつけず、自らビジネスを始めるか、あるいは働くこと自体を諦めてしまう若者が後を絶たない。こうした状況の中、新たな産業として期待が集まるIT分野で優秀なシステムエンジニア(SE)をヨーロッパへ派遣し、システム開発の機会を提供する企業がケニアで始動した。

どこにいてもパソコン一つで仕事ができる時代

カスパールコーディング(Caspar Coding)社はオランダ人のセバスティアン・タン氏とヴィンセント・ウィジェヴェルド氏によって今年の一月に設立されたIT企業。同社は欧州企業のシステム案件をアウトソーシングすることで、現地システムエンジニアに雇用機会を提供している。リモートワークを希望する者はケニアで開発を行い、ヨーロッパ行きを希望する者には現地で二年間ほど相手企業のオフィスで業務を行う。

事業の意義を語るセバスティアン氏。

同社は元々ケニアでリモート開発事業を行う予定だったが、最先端のシステム開発に必要な学習機会が限られていることに気付き、ヨーロッパへの派遣事業を行うことにした。派遣事業はコストが増加するため採算リスクが高まるものの、同社はヨーロッパで開発経験を積んだケニア人エンジニアが将来的にアフリカの発展に貢献するという壮大なプランを描いている。

「どこにいてもパソコン一つで仕事ができる時代に生まれたことは幸運なことです。ヨーロッパで経験を積んだエンジニアがアフリカに帰ってくる義務やルールはありませんが、いずれそのようになってほしいと願っています」とセバスティアン氏は語る。

テクノロジー産業に携わるケニア人が増えている昨今、ケニアにおけるIT系企業や人材を後押しする動きが活発になっている。セバスティアン氏によれば、2014年にケニアに来た際、NGOが職業訓練を行っていた光景に疑問を感じていたという。伝統的な職業は今後十年でテクノロジーの自動化により消失する可能性が高いと言われるもので、若者に雇用を提供する上で効果的とは思えなかったのだ。しかし、2017年に再びケニアを訪れた時にその考えは大きく変わることになる。以前より目に見えて若者がITに関わる雇用や学習機会が増えており、そこには新たなトレンドが生まれていた。

「ケニアには経験豊富で賢い人材が沢山います。ヨーロッパはケニアよりもIT産業が成熟しているので、ヨーロッパでの開発を希望するエンジニアにはより多く、高度なシステム開発の機会を提供できると考えました」

ケニア人SEがアムステルダムで活躍

ヨーロッパでの業務で大きな問題はビザや労働許可証の取得だ。労働許可は厳しく制限されており、特別な実績がなければ中々労働許可が下り辛いという現状がある。カスパール社が画期的な点は、提携企業や顧客企業と連携することで永住ビザすら取得できる体制を整えており、アフリカからヨーロッパへのIT人材を派遣する門戸を大きく切り開いたことだ。

「IT人材への需要はヨーロッパではとても大きい。労働許可の要件としては現地企業での開発に二年間従事することが条件となります。その二年間でエンジニアがどれだけ成長するかが楽しみです」

現在同社では9名のエンジニアを抱えており、これまで3名をヨーロッパに派遣してきた。出張で欧州企業を訪れる社員も多く、世界標準レベルのシステム開発をキャッチアップすることも容易であるという。

初めてヨーロッパの現地システム開発に挑んだアモス・コスゲイ氏はケニアでJAVAの開発経験を12年間積んだ後、世界有数の規模を誇るING銀行で開発を行った。アモス氏はING銀行での開発から学んだことに触発され、以前よりも多様なシステム開発に取り組んでいるという。セバスティアン氏によると、多くの企業や銀行が新たなテクノロジーの導入に苦戦しているが、ING銀行は最も積極的にデジタル化への移行を推し進めており、そうした場で経験を積めたことはラッキーなことだと語る。

「アフリカでは急速に最先端のIT産業をキャッチアップしているが、残念ながら『その他の世界』の人間に対する誤った偏見によってIT人材が正しく評価されていません。しかし逆に考えてみれば、実績のある優秀なケニア人エンジニアが(オランダの)アムステルダムで需要があるともいえます。リモートワークも可能なため、この需要を取り込むことは大きなハードルにはなりません」

オフィスでヨーロッパから来た案件のシステム開発に取り組む同社社員。

ケニアからの派遣体制を整えるのには多くの困難があったが、とりわけ商習慣と文化の違いは問題となった。ケニアでは多くのエンジニアが副業を行っているため社内教育や業務に支障がでる場合もあり、カスパール社が求めるフルコミットできるエンジニアを探すのには苦戦した。

「弊社のビジネスモデルはヨーロッパで一般的な雇用関係が基になっていたため、エンジニアとの意思疎通が必要不可欠でした。その後いくつか案件の受注に失敗したこともあり、可能な限りリモートワークに適したスタイルに修正することでこの問題に対処しました」

カスパール社は可能な限り多く雇用を生み出すこと、多くの機会を与えることでケニアの若者に刺激を与えること、そして若手エンジニアが起業して経済を活性化させることといった、三つのミッションを掲げている。アフリカでITといえばルワンダが有名だが、セバスティアン氏はケニアを選んだ理由を次のように語る。

「ルワンダがアフリカにおけるIT先駆者になろうとしていることは知られていますが、私たちはより優れたエンジニアが数多くいるケニアを選びました。若者の人口も多いため、エキサイティングで希望がある事業だと考えています」

ケニアにおけるIT分野の可能性

失業問題が深刻なケニアでIT産業に期待が集まっており、ヨーロッパへの扉を開いたカスパール社の意義は極めて大きい。アフリカの中でもケニアは特にインターネットの環境が良いことで知らており、スタートアップ投資が急増する中でケニア人エンジニアの需要も多く、IT関連企業が事業を開始しやすい環境にある。また、システム開発の主要言語である英語が独立前後から取り入れられてきたケニアでは、最先端の知識をキャッチアップすることが容易な点も魅力的だろう。

アフリカでIT分野に可能性を見出そうとする企業やスタートアップは増加しており、今後カスパール社のような取り組みが増えることでアフリカ全体の状況が好転するという期待は大きい。ITがアフリカで切り開く未来に期待したい。

筆者: Rahab Gakuru

翻訳: 長谷川 将士