いつでもどこでも検査が可能、母子の命を救うイノベーションを起こせるか

妊婦に対する適切な処置、特に予防ケアの必要性は世界中で注目が集まっている。近年では改善が見られるものの、アフリカでは未だ十分に処置ができる環境作りが遅れており、多くの母子が健康を害し、時には命を失う場合も珍しくはない。世銀が公開している妊産婦死亡率(妊娠中、あるいは出産後に死亡した母親の比率)によると、ケニアでは2015年のデータで1万人中510人の母親が亡くなっており、これは隣国のタンザニア(398人)、エチオピア(353人)と比べると高い水準にあることが分かる。経済規模や医療体制などを考慮するとこの統計をどこまで信頼できるかは疑問だが、本来祝福されるべき妊娠や出産という場面でこれだけの悲劇が起きていると考えると胸が痛む数字だ。

こうした状況を背景に、妊テクノロジーを用いて母子の健康を守ろうと立ち上がったスタートアップが昨年からナイロビで始動している。医療従事者を中心に結成されたスタートアップが描く解決法とはどのようなものか。共同設立者の一人に話を聞いた。

母子の命を守るスタートアップ

プレグマム(PregMum)は妊婦と幼児の健康を守るため、昨年設立されたスタートアップだ。創設者の一人であるジョン・キラグ氏はケニアを代表する病院の一つであるケニヤッタ国立病院の母子医療チームに勤務していた経験があり、毎日15から30の幼児治療を施し、週に4件程度ある出産に立ち会い続けてきた。長年の医療経験から、母子の健康に問題がある場合に早期発見できる体制さえあればより多くの人々を救え、高額な治療費も減らせるという思いが日増しに強くなり、キラグ氏は医療エキスパートを集めて昨年プレグマムを立ち上げた。

「友人たちと共にギアーボックス(ケニアで有名な工学系コワーキングプレイス)にオフィスを構えて、イノベーションによってこの問題に挑戦することにしました。私たちの挑戦の価値が認められ、フィリップス(国際的な医療メーカー)やヴィルグロケニア(医療系スタートアップを支援するインキュベーション組織)が主催したコンテストで優勝し、賞金を使ってこの会社を立ち上げました」と、キラグ氏は説明する。

共同創設者の一人、キラグ氏。長年医療現場に勤めていた経験がある。

プレグマムが目指すのは安価な技術で母子の健康状況を家庭や農村など、いつでもどこでも確認できる環境を提供することだ。同社が提供するテクノロジーが普及することで母子の健康に異常がある場合、早期発見が可能となる。ハンドバッグで持ち運びができるサイズの装置により幼児の胎動や心音、妊婦の血圧や心拍数といったバイタルサインを感知し、集められたデータは携帯電話のアプリを通じて妊婦が利用する病院へと送られる。このデータを管理する医師は処置が必要な母子を発見した際にすぐに対応することで、死亡率の低下や重症化を防ぐ狙いだ。

同社の試作品。母子のバイタルサインを記録する装置だ。©Pregmum

キラグ氏によれば、ターゲットは高齢や病気を抱えて健康リスクの高い妊婦や中間層の妊婦だ。モ集められたデータはアプリで逐一確認することができ、出産後に装置を会社に送り返すことでコストの低下と再利用を実現させる。初めての出産で不安を抱える夫婦の安心にも繋がり、妊婦を抱える家庭にとって心強い味方になる可能性がある。

実用化のハードル、まもなく臨床試験が開始

現在プレグマムは試験と開発を繰り返し、実用化へ向けた準備を進めている段階にある。母子の模型を使った実用試験では十分な成果が得られており、もうすぐ病院での実用試験が行われる予定だ。実用試験は6ヵ月間行われる予定で、助産師、医療従事者、そして装置の試用を希望する妊婦からフィードバックを受け、製品化の道を切り開く考えだ。

実用試験の最中。きちんとデータが得られるかを確認している。©Pregmum

プレグマムは様々なルートから収益化を模索している。一つ目は妊婦に装置を直接販売するルートだ。装置は一個3500シリング(約3900円)と安価で、中間層ならば手の届く値段。二つ目は同社が有望視しているSMS(ショートメッセージサービス)で医師から処方箋が送信されるルートで、こちらも一回につき10シリングと価格を抑えている。また、装置を小規模クリニックや地域のヘルスワーカーに販売することも検討しており、収益チャンネルの多様性に確保できるのではないかとみている。

キラグ氏はプレグマムの事業が母子の健康を守るイノベーションとなることに期待を膨らませているという。

「多くの命を救うための事業です。ケニアは持続的開発目標として妊産婦死亡率を減少させようとしていますが、この事業はその目標達成に大きく貢献できるでしょう。死亡率を限りなくゼロに近づけるため、この事業を成功させたいと思っています」