<コラム>隣は何をする人ぞ~たまに火サス?ケニア長屋暮らしのリアルな生活~

いきなりだが、私の住む町で外国人は私だけである。その他の住民は省庁勤めのサラリーマンから自営業を行う者など、一般的なミドルクラスのケニア人たち。ここでいうミドルクラスとは、高級住宅街に住んでいる訳でもなく、かといってスラムに住んでいる訳でもない、たまの贅沢を楽しめる程度のささやかな暮らしを送る人たちである。そんな町で私が暮らす長屋は、電気はたまに止まり、水は週に二日ほど思い出したかのように流れ出し、隣の部屋の音は筒抜けといった状況。もちろん暖かいシャワーは出ないし、居住者は私以外全てケニア人だ。

ナイロビで暮らす日本人でここまでケニア人と近い立ち位置で暮らしている日本人はほとんどいないかもしれない。そんな私の『普通の暮らし』を少しだけ紹介したい。

見知らぬガイジンにも結構優しいケニア人

この長屋を選んだのは会社のオフィスに近いため、オフィスから歩いて5分程度だ。初めての日本人居住者の私は住民からどう思われるか不安だったが、意外とすんなりと受け入れてくれたように思える。会えば挨拶を交わし、洗濯物を干すため天気の話をし、重い荷物を持ってあげたり持ってくれたり、ほどほどに助け合いながら暮らしている。長屋へ入るゲートには鍵がかけられているため、鍵を忘れた住民のためにゲートを開けに行くことはしょっちゅうある。私が鍵を落とした時が数回あったが、その時は気前よく鍵を貸し出したりしてくれたりもした。

困った点といえば騒音だ。ここでの生活は基本的に音を垂れ流す生活といえるかもしれない。時間を問わずテレビを爆音で聞く住民が多いため、その時はイヤホンをしてやりすごす。ケニアではバスの中でも街中でも、とにかく音が大きい。静かなところが好きな私には文字通り耳が痛くなるところだ。また、ケニア人は笑い声も大きい。笑い方も特徴的で、一目をはばからず「アッヒャッヒャ」とか「アヒィーヒィー」とかいった大爆笑をする。ケニア人の良いところはよく笑うことだと思うものの、部屋で作業中のときに壁を突き通して豪快な笑い声を聴いてしまうと少し気が抜けてしまうのは困ったところだ。

子どもは元気が一番、なのだけど

長屋の一室で作業をする上で一番困ることは、もしかしたら子どもたちかもしれない。一般的に長屋には子どもが多い。家賃が手頃で、働き盛り、子育て盛りの家庭が多く入居しているためだ。私が住んでいるところでは、部屋数が11、子どもが15人程度いる。これに近所のやんちゃボーイズ&ガールズが加わるので、長屋の敷地にある小庭はさながら小さな遊園地といったところだ。

遊びに熱中する子どもたちは小さな怪獣みたいなものだ。よく笑い、よく泣く。小さい庭で縦横無尽にサッカーをし、自転車を乗り回し、とりあえず走り、ときに何かにぶつかる。隣の部屋の2歳くらいの子どもは泣き虫で、何かあれば、または何もなくてもよく泣く。その度に年長の子供たちが慰める…ことはなく、泣き真似をしてはやし立てるので、その子はまるでこの世の終わりでも来たかのように全身全霊で泣き続ける。かと思えば私が仕事に出かけるため外に行こうとするたびに「ジャパニーズ!」と態々部屋から出てきて握手をしに来る。何か物を挙げたこともなければ何かをしてあげた訳でもないが、さっきまで号泣していたはずの子どもがニコニコ笑って走り寄ってくるので、親御さんから感謝されることもある。いやいや、私はお宅の子どもを泣き止ませるためのマスコットではないのだけど、という思う気持ちはあるものの、あと数か月もしたらこの『日本産マスコット』にも飽きるだろう。

そんなメロドラマはいらない

夜中に物が壁に当たり、女性の罵声が聞こえるときは私の部屋の上に住む女性オーナーの仕業だ。聞いた話が本当であれば、そのオーナーは元々エンジニアとして海外で働いており、貯金がたまったのでこの長屋を立てて、悠々自適に暮らしているという。親戚からお金の無心をされて疲れているけど無下にはできずにモヤモヤしているそうで、子どもはいるものの、一緒に住んでいる男性が夫か恋人かは分からない。

週に一度のペースで夜中に大ゲンカが始まり、中々物騒なセリフや下品なセリフが飛び交うときもある。大抵は浮気がらみで、まるで火曜サスペンス劇場のような修羅場が繰り広げられるときもあるが、慣れっこである長屋住民は知らぬ存ぜぬで関わりを持とうとはしない。ここはオーナーの持ち物件なので、男性はよく外に追い出され、深夜の町を這いまわることになる。たまにオーナーが階段を下りてきて私に愚痴を言おうとするものの、仕事で忙しい私がぞんざいに受け流している内にそういうこともなくなった。かと思えば昨夜の『事件』が嘘かの様に、生クリームをギチギチに煮詰めたかのようなささやき合戦が始まることもある。なんだかんだで仲はそれなりなようだが、こういうことは他所でやってくれというのが私の本音で、他人の色恋に関心のある方にはぜひおすすめしたい長屋だ。

ケニアの庶民生活もなかなか味がある

私にとって自分の部屋は作業場所と寝るところ、それ以上の意味はない。ケニアに住む他の日本人の方からは、なぜそんなところに住むのかと聞かれることがそれなりにあるが、結局のところなかなか面白いからなのだと思う。たまに耳に入ってくる悩みや情報はその後記事のネタとなるときもあるし、ミドルクラスを対象とした調査や取材は町を歩き回って世間話をするだけで当たりがつくこともある。何かと世話を焼いてくれて生活を助けてくれるおばあちゃんや、困ったときに頼りになる兄ちゃん達がいなければそもそもケニアで生活をできなかったかもしれない。新聞売りのおっちゃんとは毎日世間話をし、キオスク(ケニアの個人商店)の店主には手持ちのお金がないときにツケで商品を買わせてもらっている。料理をする時間がないときにはニャマチョマ(焼肉)屋に駆け込み、仕事帰りのお父さんと向かい合って肉とウガリを平らげても、この珍妙なアジア人を快く迎えてくれる。この町では人と人との距離が短い分、面倒なことも助けてもらうことも数多くある、といえる。

この長屋に住んで一年ほどが経つが、住民にはとても感謝している。今度日本に帰国するときには、質の良い耳栓だけが必要だな、と考えている。

筆者:長谷川 将士

ノンフィクション

Posted by HasegawaMasashi