テロ襲撃現場で求められた判断、活きた安全対策と課題

15日、ナイロビで発生した武装集団による14リバーサイド襲撃事件はウフル・ケニヤッタ大統領の安全宣言を機に、一応の収束をみせている。日系法人三社が入居している敷地内で発生した凶行だったが、幸いにも負傷した日本人はいなかった。

一部報道やSNS上ではすでに事態が終わったかのような風潮が流れているものの、事件そのものに関する情報は未だ限られている。安全とみられていた14リバーサイドで発生した襲撃は、ナイロビに住む人々に改めて襲撃時の適切な判断と安全確保が求められているという現実を突きつけている。

本記事では当時被害現場から脱出に成功したJETROナイロビ事務所の久保唯香氏に協力していただき、襲撃時に求められる判断と安全行動の現実と課題について伝える。

迫られた判断、決死の逃避行

事件が起こった14リバーサイドは道路から検問が行われるゲートまでやや距離があり、敷地内通路ではタクシー等の車両が複数台停められていることが多い。ゲートから建物までの距離はさほどなく、奥まったJ字型路地を通り各施設へとたどり着く構造となっている。

道路から14リバーサイドへ続く通路。襲撃の対象となったdusit D2の看板が見える。

午後3時半頃、建物が崩壊するような音が鳴り響いた。政府によりナイロビで推し進められている建物の解体作業の音かもしれないと思った矢先に銃声が散発的に鳴り響き始め、次第にその数が増えたことで何か異常が発生している可能性を考え始めた。避難準備のために荷物をまとめていると銃撃戦が行われているような音が事務所の方向に近づいてきており、窓の外では敷地の入り口から反対方向に位置するリバーサイドパークへと走っていく人々が見えた。

JETRO職員の一人が様子を見に外に出ていったところ、5秒後には血相を変えて事務所に逃げ込み、「マズイことになっている!」と叫んだ。建物の入り口には難を逃れようとした人々が殺到し、パニック状態になっている。この時点で久保氏らJETRO職員は危機から逃れるため判断を迫られている状況だと認識したという。

どのようにして安全を確保すべきか。キッチンに立てこもり、バリケードを作るべきか。予断を許さない状況の中で、何が安全に繋がる適切な行動かを判断しなければならなかった。

14リバーサイドは外資系企業のオフィスが集まる複合施設で、多くの日本人ビジネスマンがミーティングで使用する馴染みのある場所だ。セキュリティ水準も十分に確保されていると認識されており、これまで久保氏は同オフィスで業務を行う中で危険を感じたこともなく、今回の襲撃は正に予期せぬ異常事態だった。

瞬時に行動に移さなければならない状況下、久保氏は過去に受けた安全対策訓練で見たアメリカのテロ対策映像を思い出し始めていた。先ずは逃げることが先決だ。銃声は事務所方向に近づいている。人々はリバーサイドバークへと逃げている。危険の発生源が敷地の入り口付近ならば、それと逆方向に逃げるべきだ。自分でも意外なほど冷静に最適解へとたどり着いた。

JETRO職員は裏口からリバーサイドパークへ脱出することを試みる。敷地を隔てるフェンスに有刺鉄線が無いことを知っていたため、フェンスをよじ登り、ワイヤキ・ウェイ方面へと走り出した。その後職員らは合流に成功し、事件発生からおよそ二時間後には開店前のCHEKAレストランで落ち合った。

求められるテロ襲撃時の合言葉

今回の襲撃事件はテロである可能性が高く、ナイロビで活動する住民にとって大きな問題を提起しており、日常の隣には常に危険が潜んでいる現実をまざまざと見せつける形となった。日本人を含む外国人が頻繁に利用する施設で自爆を厭(いと)わない武装集団が攻め込んだときに、襲撃を阻止する能力が備えられていないことが改めて露見したためだ。

2013年にウェストゲート・モールで発生したテロ事件後から様々な安全対策が行われてきたものの、最後に自らの身の安全を守るものは適切な知識と判断による部分が大きい。

久保氏はテロ襲撃を受けて、過去に受けた安全対策訓練で学んだことを即座に思い出し、実行する必要性を痛感したという。たとえば日本では地震発生時に「おはし(押さない、走らない、しゃべらない)」という標語が広く認知されており、適切な行動をすぐにとることができる下地がある。仮にテロ襲撃時に適切に対応するための合言葉のようなものがあれば、危険を回避できる行動をとれる可能性が増えるのではないかと語っている。外国で働く人口が増え、未だ情勢が安定しているとはいえないアフリカ各国で活動する日本人が増えている昨今、個人で行えるテロ対策の重要性は増している。

現実的に考えるならば、筆者を含めてナイロビや沿岸部に住む日本人がテロに巻き込まれる可能性が存在している。今回発生した悲劇から何を学び、今後被害に遭う人々を減らすことができるか。ケニアのみならずテロの可能性がある地域で活動する日本人が情報を共有し、 一致団結して対策する必要に迫られている。

筆者:長谷川 将士

ノンフィクション

Posted by HasegawaMasashi