「産業革命の波を掴め!」、アフリカ発3Dプリンターに懸けるエンジニアの矜持

現在世界中でデジタル化による第四次産業革命が進んでいる。ビッグデータやIoT、人工知能に加え、革命の一端を担うのが3Dプリンターだ。従来の大量生産という製造形態からマスカスタマイザーション、つまりそれぞれの消費者に「パーソナライズ(個人最適化)された製品」を製造可能になる段階へ移行するとみられており、その中で3Dプリンターは中心的な役割を果たすとされている。また、新たなテクノロジーが搭載された機械に使われる部品の製造を簡易化し、製造コストを下げることでイノベーションそのものを加速させることも期待されており、注目度が高まっている。

新たな『革命の波』をキャッチアップしようとケニアで奮闘しているのがナイロビ大学でメカニカルエンジニアを専攻し、アフリカボーン3Dプリンティング社(以下、AB3D社)を設立したロイ・ムワンギ・アンビティ氏だ。彼はケニアが新たな革命の波に取り残されず、最先端テクノロジーに追いつくというビジョンを描いている。

同僚と3Dプリンターの開発を議論するロイ氏(右)。手前は3Dプリンターで成型した樹脂部品。

ロイ氏は学生時代、ハッピーフィートというプロジェクトを開始した。これはジガという寄生虫に蝕まれ、変形してしまった足でも履くことができる靴を生産し販売する事業であったが、それぞれの足に合う靴を生産するには高価な3Dプリンターを頻繁に使用する必要があり、生産コストの高さからこのプロジェクトは失敗に終わった。

しかし、3Dプリンターの可能性を実感したロイ氏はその後、誰でも簡単に扱え、手に入れることができる簡易3Dプリンターを生産する重要性に気付く。これがAB3D社の始まりだった。同社はケニアで手に入るリサイクル材料を中心に3Dプリンターを製造する事業を手掛けており、ケニアの誰もがこの最先端技術に触れられる環境を提供することを目的としている。

AB3Dは現在6名の社員を抱えており、中国から輸入するいくつかの部品を除けば、ほぼ全てケニアで入手できる材料をつくって3Dプリンターの製造を行っている。同社はできるだけ現地で入手可能な材料を使うことを心掛けており、中古のプリンターやコンピューター、携帯電話から部品を取り出し、3Dプリンターを作り出している。

「3Dプリンターは素晴らしい製品を作るための媒体の様なものです。第四次産業革命のキーテクノロジーの一つで、社会課題を解決するイノベーションやプロジェクトに3Dプリンターはより活用されていくでしょう」

同社が製造、販売する3Dプリンター。樹脂を溶かし、コンピューター制御で成型を行う。©AB3D

ロイ氏によれば3Dプリンターは第四次産業革命の一端を担う存在であり、すでに世界で普及し始めている。例えば先進国ではこの最先端テクノロジーを受け入れる状況が整っているため、技術活用によるアドバンテージが大きいと指摘する。

「技術水準でケニアのような国が後れを取っていることは事実です。しかし、弊社ではFDM(熱溶解積層方式、樹脂を熱で溶かしコンピューター制御で成型する方法)プリンター分野でアドバンテージがあります。ちょうどコンピューターが登場した時の様に、この先誰もが3Dプリンターを使うことが当たり前になる時代になるでしょう。もし私達(ケニア人)がこのアドバンテージを生かさなければ20年後、この産業革命の波に乗り遅れてチャンスを無駄にしてしまうという危機感があります」

AB3D社はこれまで3Dプリンターをエンジニア、技術者、宝石加工業者、医師など様々な分野の顧客に販売しており、価格は一台4万シリング(約4万4千円)だ。同社の主なターゲットは学校で、実践的かつ教師と生徒が直にこのテクノロジーを使いながら学び、活用できる環境を提供したいと考えている。

「学校関連では大学を中心に、ナイロビ大学やケニヤッタ大学、ストラスモア大学、ジョモケニヤッタ農工大学などに販売しました。他には私立高校やインキュベーションセンターも買ってくれましたね。面白いのは私の知人が購入したケースで、スーパーで家の補修に使う部品を買う代わりに3Dプリンターで部品を作り、安く仕上げたことです。3Dプリンターは汎用性がありますからね」

ロイ氏が抱く野望は、ケニアの全ての学校で3Dプリンターが設置されることだ。ケニアには少なくとも2万5千校以上の公立学校が存在し、もしこの野望が実現されたならばケニアに革命すら起こすことができるという。

「今は調子の良い月でも6、7台売れれば良い方でしょうか。テクノロジー絡みのことはたいてい難しいことだらけですが、それでも成長できると信じています。この事業をナイロビ中、ケニア中、そして東アフリカ中に広めていきたいです」

3Dプリンターの改良を行うエンジニア。握るドライバーの先にはケニアの未来がある。

AB3Dが直面する課題は如何に3Dプリンター市場を拡大するかだ。同社はこれまで 長年 資金を投じて3Dプリンターの周知を進めてきたが、このような新技術は市場であまり認知されておらず、たとえ有用であっても顧客を得るまでに時間がかかる。しかし、ケニアは他の国に比べて新しい技術に対して敏感に反応する土壌があり、好奇心や柔軟性が高く、この国で同事業を進めてこれたことは幸運だ、とロイ氏は語る。

ロイ氏はまた、スタートアップにとってケニアのビジネス環境は非常にタフなものだと指摘する。税制度の面で大企業と零細企業で区別がなく、ビジネスを始めたばかりの若く新しい企業をサポートする制度が不十分だからだ。しかし同時に、ロイ氏にはビジネスにおいて変わらない信念があるという。

「これは常に言い続けてきたことですが、ナイロビで可能なことは世界中どこでも可能だということです。ナイロビの環境は(ビジネスにおいて)困難が多くありますが、私達は常にマーケットが欲しているものを作り続ける忍耐があります。これからもユニークな製品を作り続け、マーケットに出し続けていきますよ」

AB3Dはケニア市場で競合はいないと考えている。確かに外国企業産の3Dプリンター製品が輸入されてきているものの同社の製品は価格が安く、アドバンテージが大きい。また、購入した顧客に対する技術指導や3Dプリンターの活用法を提示するといったアフターケアを行えることは大きなメリットであり、現地企業と共に3Dプリンターの新たな可能性を模索し続けている。

「結局、『もっと良いアフリカ』が見たいんですよ。この大陸の潜在力は計り知れなくて、ここで起こる変化をどうしても見たい。テクノロジーを使って社会課題に対して解決策を提示するような、若く革新的な人々を見ると嬉しくなりますね。身の回りの課題を解決できる人なら、世界を変えられる存在にすらなれると思いますから」


筆者: Rahab Gakuru、長谷川 将士

スタートアップ

Posted by HasegawaMasashi