現代を生きる、一夫多妻に揺れ動く妻たちの想い~金か、子供か、それとも愛か~

最新のケニアの人口統計によれば、現在ケニアでは重婚、つまり一夫多妻の形をとる人口が約150万人ほど存在する。キリスト教の浸透により若者世代を中心に一夫一妻が増加しているケニアではあるが、現在でも農村部や年配のケニア人を中心に重婚は継続されており、2014年3月には法令が制定され、ケニアで重婚が合法化された。

歴史的にみれば重婚は珍しいことではなく、日本では明治時代初期には妾(めかけ)が合法的に認めれていた。その後西欧列強に追いつくため西欧文化を積極的に取り入れていった過程で一夫一妻制へと移行し、1898年(明治31年)に民法で親族の規定が制定されたことで、正式に重婚が禁止された。

重婚が規制されてから百余年、現在の日本では複数の妻がいるという状況は中々想像しにくいだろう。経済的、社会的に結婚がしにくくなっているといわれる日本で、重婚とは新鮮で、時に奇妙な『愛のカタチ』であるのかもしれない。

ナイロビのシナイスラムに住むマーティン・オキンダは今年30歳になった。彼は2010年に『一度目の結婚』をした。当時のことをマーティンは「店番として働いていたお店で彼女と出会いました。とても優しい声で話す女性で、毎朝彼女の声で起こされたいと思ったのがきっかけでした」と語る。

一度目の結婚相手であるアン(仮名)はマーティンより年上で、当時は叔母と共に暮らしていたが、マーティンが店番を辞めてからは一緒に生活するようになった。その後マーティンはアンの両親と会い、同棲をしていることを伝えた。父親が牧師をしていたためマーティンは内心冷や汗をかきながらアンとの関係を説明したという。幸いにもアンの両親はマーティンを快く迎え入れてくれたが、本当の修羅場はその五年後、彼が二人目の妻について両親に説明しなければならないときに訪れる。

マーティン(左)とアン(右)

「初めてマーシーを見た時は胸が高鳴ったよ。もちろん二人目の妻を探そうなんてこれぽっちも頭になかったけど、あれは正しく一目ぼれでした」

マーティンが後に二人目の妻となるマーシー(仮名)と出会ったのはこれまた当時の職場であったダンドラスラムの建設現場だった。石工として働いていたマーティンは近くで主婦をしていたマーシーと出会った。

夫が新たな愛に目覚めたとき、アンは大いに動揺をしていた。

「今は何とか現状を受け入れています。マーティンが二人目の妻を迎え入れると伝えたときは本当に胸が痛みました。ただ、最後は彼に新しい妻を娶(めと)ってもいいと伝えました。私が子供を産めないせいで親戚からあれこれ言われていたのも理由の一つかもしれません」

マーシーは現在26歳で、二人目の妻としてマーティンの家庭に入ってからは4年が経つ。今では彼との間に3歳の娘が生まれているが、当時すでに二人の子供を抱えていた。

「彼が私にアプローチしてきたとき、最初にはっきりと彼が既婚であると伝えてきました。その時私は彼に5人の子供がいると嘘をついたんですよ。彼が真剣かどうかを試したくて。彼はたとえ子供が10人だろうが関係ないと言いましたけど」

マーティンは子ども達をよく可愛がり、そのことがマーシーの心を動かし始めていた。しかし彼と一緒になるには家計の問題があり、マーティンの下を離れるべきかどうか思い悩んでいた。

「マーティンを愛している理由は、彼がとても私のことを理解してくれていて、何でも気軽に話をしてくれることです。お互いの意見が食い違った時はいつも座って、納得がいくまで話し合ってくれます」

夫が新しい家庭を築くのを横目に、アンは胸が痛むこともあったという。子供さえできていればこんなことにはなっていなかったのではないか。マーシーは子どもが産めるから、彼女に愛が一方的に注がれるのではないかという不安もあった。幸か不幸か、マーティンは二人の妻に分け隔てなく愛情を注ぎ、夫としての役割を全うしていたとアンは語る。

「私の両親は初めの頃、マーティンが二人目の妻を娶ることに反対していました。彼はきっと私を大切にしなくなるだろうと考えていましたから。でも、最後には私たちの考えを受け入れてくれ、私達を支えてくれるようになりました」

マーシー(左)との間に生まれた娘と笑顔を見せるマーティン。

二人の妻と家庭を持つマーティンは彼なりにどちらの妻も家庭も大切にしようとしている様である。例えばアンと共に過ごした次の日にはマーシーと過ごさなければならないというルールがあり、二人の妻たちはお互いが受け取る愛情が偏ることを良しとしないという。

マーティンはアンから二人目の妻を受け入れるという話を聞いた時のことを「少しもやもやして、寂しかった」と思い返す。しかし彼によれば、多くの人は周囲からのプレッシャーや家事をしてくれる人を得るためといった理由から結婚するが、結局はそこに愛と信頼があり、お互いを必要としているかどうかなのだという。

「それがアンを手放さない理由です。確かに子どもは産まれていませんが、神の御心のままにきっと全てが上手くいくようになりますよ」

マーティンに二つの家庭を持つことは経済的に大変ではないか尋ねると、妻たちはそれぞれ自営業をしており、彼の稼ぎが足りない時はいつも助けてくれているらしい。

「マーシーが色々教えてくれるので私が今やっている自営の仕事でも稼げるようになりました。何でもポジティブに捉えることです。ポジティブに生きれば必ず自分に返ってきますから」

もしかすると、読者の中には今回紹介したマーティンの事例に納得がいかない方もいるだろう。事実、ケニアでは安易に結婚しその後問題が起きれば夫が身を隠すという事例は石を投げれば当たるくらい多く、シングルマザーが子供を育てている家庭は珍しくない。しかし、マーティンが真剣に二人の女性を同時に愛そうとしていることもまた事実であり、世の中には様々な『愛のカタチ』があることを伝えてもいる。

他人の家庭に口を出すことほど野暮なこともないだろう。彼と二人の妻が幸せに過ごす未来を祈っている。

筆者: Abdallah Lomoro、長谷川 将士

経済・社会

Posted by HasegawaMasashi