登録者13万人越え、インフォーマルセクターでデジタル革命は起こるか~マッチングプラットフォームが提供する透明性と信頼~

フォーマルセクターでの雇用(正規雇用)が限られているサブサハラアフリカでは、大多数の労働者はインフォーマルセクター(非正規分野)で糊口をしのいでいる。ILO(国際労働機関)の推計ではサブサハラGDPの約41%がインフォーマルセクターから生じており、路上の物売り、靴磨き、 廃品回収、職人など不安定な状況下で就業を余儀なくされている場合がほとんどだ。

ケニア国家統計局によれば、労働者の実に81%がインフォーマルセクターに従事しているとされる。比較的工業化が進み、フォーマルセクター雇用数が一定数存在するケニアでこの割合だということは、工業化が進んでいない国ではよりインフォーマルセクターで働く割合は高いだろう。

マクロ経済を底辺から支えるインフォーマル労働者達だが、最大の問題はいかに顧客を得るかだ。

広告用のWEBサイトや店舗を持たない彼らは効率的な営業活動を行っておらず、仕事は主に個人のネットワークから人づてで得られる状況だ。安定して仕事を得ることが困難なインフォーマル労働者は少し仕事が入らなくなるだけで飢えや乾きに苦しむことになり、すぐ健康を害してしまうリスクと隣り合わせである。

こうしたインフォーマル労働者の生活を向上させるために立ち上がったのがネットウーキー(Netwookie)社だ。同社は2015年にマックス・ボック(Max bock)氏が設立したソーシャルプラットフォームを提供するスタートアップでフランスとケニアに拠点を持ち、インフォーマル労働者が仕事を得られる機会を増やし、デジタル技術を用いることで信頼の創造と効率的な受発注システムを構築しようとしている。

マックス氏はインフォーマルセクターの現状を次のように説明する。

「もし仕事を見つけるハードルが下がれば、インフォーマル労働者にとって大きなメリットになります。弊社の調査ではこうした労働者は活動時間の80%を次の仕事を得られるまで、ただ待つことだけに費やしています。

法制度による支援やフォーマルセクターからの依頼が無いこともありますが、特に労働者と顧客の間で信頼が存在していないことがこの状況に拍車をかけています。この状況を変えることがネットウーキーを始めた理由です」

ネットウーキー創業者のマックス氏。

ネットウーキーが提供するプラットフォームの機能は、登録しているサービス提供者に顧客が直接依頼できるというものだ。プラットフォームではバイクタクシーのドライバー、配管工、電気工、掃除屋、IT技術者などが登録しており、ネットウーキーではこうしたフリーランサーやインフォーマル労働に従事している登録者を『プロ』として、顧客の注文を受け付けている。

プラットフォームに登録したプロは携帯電話に登録している個人情報を提供し、顧客と直接の知り合いがいるか、共通の知り合いがいるか、利用経験のある顧客から信頼を得ているか等の情報が随時アップデートされる。顧客はリストからプロを選び、直接電話をかけて依頼の交渉を行う。

料金の支払いはプラットフォームを通じて行い、ネットウーキーは受発注が成立すれば手数料を受け取るモデルとなっている。手数料は地域やサービス内容によって異なるが、大体一回の取引で20シリング(約22円)程になるという。

ネットウーキーがナイロビでこのサービスを開始したのは2017年からだが、今では登録者数13万5千人、一日の受発注が500件を超える一大プラットフォームとなっている。

同社が提供するソーシャルプラットフォーム。©Netwookie ltd

マックス氏は同プラットフォームに関して「インフォーマルセクターはアフリカのGDPで約41%を占めています。これは毎年1兆ユーロの付加価値が生まれていることになりますが、非効率的な経済活動により、27兆ユーロの機会損失があるといわれています。私たちはこうした構造を根本から変え、人々の収入を2倍にし、生活を豊かにしたいのです」と語る。

ネットウーキーが始まったきっかけは、マックス氏がボランティアとしてブラジルのファベーラ(非正規居住区)で活動していた時、二人の男が泥とホコリにまみれながらフォルクスワーゲン社製の車のバッテリーを使い、器用にラジオを動かしていたことだった。 ファベーラで創意工夫で活動していた彼らを見て、インフォーマル経済には素晴らしい才能を持った人々が数多くいるにもかかわらず、彼らやその家族にとってより良い人生を送る機会がないことに気付いたという

マックス氏はその後ケンブリッジ大学でナノテクノロジーの博士号を取得した後、ポスドクとして持続可能かつ現状を変える方法を模索した。彼はケニアのマザレスラムにあるデザイン・コミュニティセンターでUN- Habitat(国際連合人間居住計画)と協働しながら、スラムコミュニティへの理解を深めていった。

「建設工事の際、コミュニティ内でよく知らない人間を雇うことの難しさに直面しました。住民は自らのプロフィールを伝える方法が無く、主に人づてで推薦されてやってくるのです。もし活動履歴を残し、労働者と顧客をマッチングできればこうした状況は変えられます。その時にネットウーキーモデルの原型を思い付きました。」

現在ネット―キーではサービス拡大のためコミュニティへ積極的に関わり、勉強会の開催やキャンペーンを継続して行っている。

プラットフォーム登録者による勉強会の様子。

「弊社の調査チームは顧客から極めて重要なフィードバックを集めており、直接会って話したり、電話をしたり、SNSでメッセージを交わしたりしながらこのサービスを改善し続けてきました。私たちのミッションは若い人々がジェンダーを超え、収入を増やし、成功したアントレプレナーになってもらうことです。そして、このサービスをケニアだけではなく東アフリカへと拡大させたいと考えています」

ネットウーキーは昨年末にドイツのソーシャルインパクトファンドであるグリーンテックキャピタルパートナーズ(GreenTec Capital Partners)から投資を受けた。金額は非公表ながら、グリーンテックはインパクト、環境への貢献性、収益性を三段階に分けて評価しており、同社はインパクトと収益性で最高評価を得ている。

ネットウーキーの課題はプラットフォームの不具合が生じ、マッチングサービスが停止することがあるということだ。また、現状では多くの取引がバイクタクシーのドライバー関連の物であり、セーフボダ(ウガンダ発のバイクタクシー配車プラットフォーム)などと差別化できているとはいえない。マックス氏はプラットフォームを改善し、サービスを拡大するため、技術力を持った企業と共同して開発を行うことを望んでいるという。

改善を繰り返しながら拡大を続けるネット―キー。マックス氏は取材の最後をこんな言葉で締めくくった。

「私たちの情熱とは、インフォーマル労働者の方達が信頼を築くための透明性を提供することで、貧困から抜け出してほしいということです。デジタル経済と労働者が結びつくことで、顧客を増やし、収入を二倍にすることさえできます。これはまだ始まったばかりです。デジタルが提供する透明性は金融、ヘルスケアなど他分野に応用することができます。私達は長期的にインフォーマルセクターの人々と向き合い、彼らの生活を豊かにしていきたいと考えています」

筆者: Lilian Mutegi、長谷川 将士

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Posted by HasegawaMasashi