ケニアの失業率は7.4%~43.5%?マクロ統計は実態を反映しているか

ケニアで投資やコンサルタント事業等を手掛けるヒダルゴグループ(Hidalgo Group)が運営する経済オンラインメディア、ソコディレクトリ(Soko directory)は昨日、ケニアの失業率が43.5%に達するという記事を公開した。この統計は国家雇用局の職員が伝えたものだとしており、同記事では世銀やケニア国家統計局の統計を引用しつつ、これまで発表されてきた失業率との矛盾を指摘している。しかし、失業率43.5%という数字の根拠となる調査やレポートの出所が確認できないことに加えて統計の引用に誤りがあり、同記事の信頼性には大きな疑問が残っている。

若者の失業問題、インフォーマルセクターでの労働問題が頻繁に取りざたされているケニアでは、失業率は国家運営に影響する重要なマクロ経済指標である。ケニアの実態を反映する失業率はどこかにあるのだろうか?そこで、先ずは各機関が公開している失業率を見ていこう。

公開されている失業率でソコディレクトリの記事が伝える数字である43.5%に最も近いのは、ケニア国内紙であるビジネスデイリーが2017年3月3日付で公開した記事にある39.1%という失業率だ。同記事では東アフリカ5カ国の失業率と比較し、ケニアの失業率が最大であることに警鐘(けいしょう)を鳴らしている。しかし、この統計の出所とされている国連開発計画(UNDP)が発表した人間開発開発指数や同指数データを援用して作成された人間開発レポート2016では失業率は9.2%となっており、ビジネスデイリーの発表した失業率が誤引用されたものであることが分かる(注1)。なお、世界銀行と国際労働機関が公開している失業率(2018年)はそれぞれ11.4%と9.3%であり、数字が大きく異なっている(注2)

次にケニアの研究機関が発表している数字を見てみよう。ケニア国家統計局が2012年に発表したレポートでは2009年時点で失業率が9.7%されている(注3)。また、2018年に発表したレポートでは2016年度のデータで7.4%としており(注4)、国際機関が発表する数字よりも若干低いことが分かる。

これまで各機関のケニアにおける失業率を見てきたが、ここで一つの疑問が残る。『失業』という一つの対象を表した数字で、なぜこれほど数字に差があるのだろうか。対象が一つで複数の『失業率』が存在するということは、それら『失業率』の複数、あるいはすべてが間違っているということだろうか。この問いに答えるため、マクロ統計指標の理解に重要な定義の問題とメソドロジー(手法)について説明したい。

全てのマクロ経済指標はメソドロジーに依存する。どういう事かといえば、ある数字データをどのように入手し、、測定(推計)したかで結果が大きく変わるということである。分かりやすい例はGDPが挙げられる。GDPは計算方法により大幅に数字が変わることがあり、2014年にナイジェリアで再計算が行われた際には南アを抜いてサブサハラアフリカ最大の経済大国となった。計算方法を変えたところで実態が変わることはないが、マクロ経済指標がメソドロジーに依存することを表しているといえる事例だろう。

また、本記事で取り上げている失業率では、いかに統計的に体系づけられた聞き取り調査を実施できるかどうかでも数字が大幅に変わる。政府や役所で国民それぞれの雇用状態を確認するシステムや能力がない場合には、聞き取り調査の結果が直接的に失業率に反映される。特に政府の能力が足りず、統計資料を確保する資金に乏しく、産業構造的にインフォーマルセクターに従事するサブサハラアフリカ諸国の政府では失業率が聞き取り調査の結果に依存する傾向が大きい。こうした聞き取り調査は国民(母集団)を対象に統計的に計算された必要人数(サンプル数)分だけの回答を得ることで全体の結果を把握しようとするものであり、性別、年齢、地域、職業、民族など回答者が持つ属性が偏れば当然全体の結果にも偏りが生じる。

実際行われている調査で特に重視されているのはサンプル数と聞き取り地域だろう。例えばワイドショーなどで見かける渋谷や丸の内で百人に聞いてみたという調査では、日本の国民を代表した結果にはなり得ない。実際に総務省統計局が行っている調査では全国で約100万ある調査区から2900区を選び、選んだ調査区から更に15世帯を選び(二段階抽出)、労働力としてみなされる15歳以上人口の約1億1千万人中10万人から回答を得ることで、回答者の属性に偏らずにバランスよく、統計的に十分な量のデータを得ることで国民全体の結果としている(注5)。

次に失業率の定義だが、これは各国各機関で異なるものである。多くの場合は職についていない者を『全体の人口』で割った値を失業率としているが、ここでいう『全体の人口』が生産年齢人口(15以上65歳未満)なのか、15歳以上人口なのか、あるいは全人口なのかといった違いで結果が変わってくる。失業率を推計する主体はそれぞれの目的により定義を微妙に調整しており、国家間比較を行う場合には再計算が必要な場合も珍しくはない。OECDの定義では「①調査時に職について居らず、②働くことが可能であり、③過去4週間求職活動を行っている者」が対象となっており、これを労働人口から計算したものが失業率となる(注5)。

これまでメソドロジーと定義の問題に触れてきたが、それではケニアの失業率はどのように計算されたものだろうか。ここではケニア国家統計局が2018年に推計した労働力基礎調査レポートの事例を紹介したい。

同レポートではケニアにある47州の地域をクラスターとして細分化し、それぞれ都市クラスターと農村クラスターから人口に応じて定められた世帯数から聞き取り調査を行った。合計23,852世帯で聞き取り調査を試み、その内21,734世帯(91.3%)から聞き取りデータを得た。失業率の定義はほぼOECD定義と同じく、データから推計した失業率は7.4%だが、この数字を理解するためには注意が必要となる。

ケニアの様に大多数の被雇用者がインフォーマルセクターに従事している状況では、例えば月に一回牛乳を売り歩いて収入を得るといった形態でも就業として捉えることが出来る。2015年のデータでは総被雇用者数が約1500万人であるが、その内83%がインフォーマル労働者であり、フォーマル労働者の数を大きく上回っている(注6)。労働力基礎調査レポートでは聞き取りを行った時点から一週間以内に1時間以上働いて賃金を得た者は全て就業人口に加えられるため、その分失業率は減少する。ここで注意しなければならないことは、先進国のようにフォーマルセクターで相当数の雇用をまかなっている状況とは全く異なるケニアの就業状況(そして就業の定義)を把握しておかなければ、実態から離れた状況として誤解をする可能性があることである。そのため、先述したように単に失業率を横並べに比べてみたところで、実態を理解できるのかどうかというリスクを常にはらんでいることを留意しなければならない。

本記事では失業率を例に挙げたが、いわゆる公式とされる国際機関のマクロ統計においても、定義とメソドロジーで調整された、必ずしも実態を反映しているとはいえない統計は数多く存在する。さらにはビジネスデイリーの事例に代表されるように、そうした統計が背景を確認されずに誤った解釈で流布される事例が散見されている。

数字は分かりやすく強力であるがゆえ、その背後にある文脈を確認しなければ、マクロ統計はたやすく現実から乖離したものとなるだろう。

注1:UNDP、2017、「Human Development Report 2016 -Human Development for Everyone-」、p240を参照のこと。

注2:それぞれWorld Bank Open Data、ILOstatより引用(アクセス日2019年4月4日午前3時5分、ケニア時間)

注3:Kenya National Bureau of Statistics、2012、「2009 Kenya Population and Housing Census-Analytical Report on Labour Force Dynamics-」、p xiを参照のこと。

注4:KENYA NATIONAL BUREAU OF STATISTICS、2018、「THE 2015/16 KENYA INTEGRATED HOUSEHOLD BUDGET SURVEY- Labour Force Basic Report-」、p40を参照のこと。

注5:OECD Data、Unemployment rateの定義項目より引用(アクセス日2019年4月4日午前3時25分、ケニア時間)

注6:IEA Kenya、2017、「HOW KENYA IS FAILING TO CREATE DECENT JOBS」p4をw参照のこと。

筆者:長谷川 将士

学術記事

Posted by HasegawaMasashi