これからお勉強はタブレットとスマホで?ケニアのエドテック最前線

現在行われている多くの授業は教師が黒板の前に立ち、図やグラフが少ない教科書を読み、ノートに黙々と課題を解くというようなもの。教師と生徒の間で相互コミュニケーションは限られ、疑問に思った点を考える時間は少なく、なんなら『巻き戻し機能』が付いていないため分からない部分が放置されてしまうこともよくある。

このような教育の質に関わる問題はアフリカ諸国が直面している共通課題でもある。ケニアの場合では初等教育就学率が約89%と推計されており(注1)、教育の量的側面が評価されている一方、地方を中心にぎゅうぎゅう詰めの教室に少数の教員が授業を行っている光景が常態化しており、それぞれの子供に伝わるような教育をどう行えばよいかという問題が生じている。

教育をより楽しく、親しみやすく、子どものペースに合わせて行う方法はあるだろうか。一つの回答はテクノロジーを使うことだろう。先進国を中心に近年注目されているエドテック(教育とテクノロジーを掛け合わせた造語)分野ではタブレットを片手に図やグラフ、アニメーションやゲームを多用したプログラムで学ぶことができ、それまでの机にかじりついて黙々とノートに書き進むという教育のイメージを一変させた。実はケニアでもエドテックの導入は進められており、その立役者となっているのがイーリム社(eLimu)だ。

イーリム社は2012年に二人のケニア人女性、二ヴィ・シャルマ氏とマリー・ギシンジ氏がiHubで出会ったことがきっかけとなり始まった。ケニアの教育問題を話し合った二人は、教育を受ける子どもが増え続ける一方で生徒の成績は悪くなっており、教育の質が向上していない点を問題視していた。ケニアの将来を左右しかねないこの問題に対して両氏は、教育のデジタル化により革命を起こせないかという結論に達した。

現在CEOを務めているサム・リッチ氏によれば、当時の状況を次のように説明する。

「先ず彼女たちが行ったことはアプリの試作版を作り、クワンガレスラムの学校に導入させました。検証の結果、理科のテストで平均17%ほど成績が向上したという結果が出て、このアイディアに手応えを感じたのです」

イーリム社CEOのサム氏。プログラムを作成している。

ニヴィ氏とマリー氏が立ち上げたイーリム社、そこにサム氏が2015年に加入したことで開発のスピードが上がる。サム氏は試作版のアプリとウェブサイトにアニメーションや動画を追加し、より子供が楽しく、熱中しやすくなる仕様を実現させた。この時期に政府主導の学校向けタブレット配布プロジェクトが進められていたこともあり、イーリム社は学生向けの教育コンテンツ作成を本格化させた。

イーリム社が手掛ける事業は主に学校向けアプリ事業と個人アンドロイド用アプリ事業に分けられる。サム氏によれば現在100校に導入済で、同社が提供する教育プラットフォームを利用する生徒は30万人を超える。アプリは三種類を提供しており、教員向けトレーニング用、模擬KCPE(初等教育修了試験)用、そして小学校に通い始めた生徒を対象に作られたハディシ!ハディシ!だ。

ハディシ!ハディシ!は6~7歳の子供向けにスワヒリ語と英語で読み書きを教えるアプリケーション。ハディシはスワヒリ語で『ストーリー(お話)』を意味し、多彩なアニメーションと丁寧なナレーションが特徴だ。学校のシラバスに対応した内容でストーリーが展開され、全てのカリキュラムに対応しており、最近ではソマリア語でも利用が可能になった。

「ソマリア語対応の新しいバージョンを開始できたのは非常に大きな意味を持ちます。これは学校に行く機会を失っていた大人をターゲットにしたもので、既にダバーブキャンプ(ケニア最大級の難民キャンプ)で利用されています。スワヒリ語と併せてユーザーから良い反応を得られていますね」

同社が提供するハディシ!ハディシ!の一例。親しみやすい絵が特徴。© eLimu

イーリム社ではサービス拡大のため、積極的にケニア中の学校にタブレットを配布している。事業は順調に拡大している。現在9名の正規スタッフと4名のパートタイマーを抱えており、今後もスタッフを増やしていく予定だという。

サム氏によれば、今後も事業を拡大していくにあたり、母親グループや教員グループ、マイクロファイナンス機関などへ継続的に聞き取りを行っていく予定だ。将来的には南アフリカやナイジェリアなどへと事業を拡大し、アフリカ全土の教育に貢献していきたいと意気込む。

「私たちのアプリでより読み書きができる人々が増え、教育を広めていきたい。テクノロジーによって教育がより受け入れられる環境作りをしていきたいと考えています」

同社が提供するアニメーション。スマートフォンから利用が可能だ。

注1: The World Bank Open Dataより、Net primary school enrolment(2017年)を参照(アクセス日2019年4月9日午前9時44分)


筆者: Nairesiae Masikonte、長谷川 将士

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Posted by HasegawaMasashi