<コラム> ケニア人に『失業率』を話せばきっと笑われるだろう~定義が生む公式統計と肌感覚のズレ~

ケニアの普通の人々、庶民に「ケニアの失業率って実は7.4%くらいらしいですよ」と伝えた時、どんな反応が返ってくるか想像できる人はいるだろうか?

おそらく相手がタクシードライバーならば「あー、このムズング(外国人)はきっとサファリでも楽しみに来た観光客かな」と呆れられるかもしれないし、相手が若者ならば「もしその数字が本物ならば、なんで僕たちは就職できないんだい?」と問われるかもしれないし、相手がスラム住民ならば怒りを含みながら猛然と反発されるかもしれないし、相手が世話焼きのおば様ならば爆笑されてケニアの悲惨な雇用状況を教えてくれるかもしれない。

上記は実際に筆者が体験した事例であるが、おそらくほとんどのケニア人にとって失業率7.4%という数字は受け入れがたいものであるように思える。つまり、この公式統計は庶民の肌感覚から大きくズレたものであるといっていい。この失業率は少なくとも定義としては成り立っている数字だが、公式統計と肌感覚の間にあるこの距離は一体何を意味するだろうか?このズレを説明するためには、そもそも失業率という定義の説明をする必要があるだろう。

先日公開した記事でも紹介したが、この失業率はケニア国家統計局が発表しているレポート、「THE 2015/16 KENYA INTEGRATED HOUSEHOLD BUDGET SURVEY- Labor Force Basic Report-」から引用している。2万世帯を超える聞き取りを行い、標本の偏りを無くすため多段抽出を行い、加重平均して推計された数字が7.4%という数字だ。これだけ大規模な調査を妥当な手法で推計された数字が一般庶民の感覚から離れているのは何故だろうか。理由の一つには、様々な雇用形態を一切合切足し合わせたものを就業率として組み込んでいる分、失業率が減少している点が挙げられる。

同レポートのよれば、ケニアの労働生産人口は約2496万人。その内就業している割合(就業率)は71.6%である。労働生産人口には就学者や専業主婦など能力的には働けるが別の活動に従事している者もいる。さらにこの就業者の内、フルタイム(定義では週35時間以上働いている者)は71.3%であり、パートタイムで働く者や出稼ぎ労働者、日雇い労働者などは28.3%だという。

さらにいえば、フルタイムで働くと分類された労働者の内、フォーマルセクターで安定して働いている割合はより限られたものとなる。全労働者の内13%しかフォーマルセクターで雇用を得られていないためだ。つまり、フルタイムで働けている労働者がそもそも限られていることに加え、フォーマルセクターで働けている割合はさらに絞られてしまう。こうした状況を考えると、日銭を稼ぐことに必死で、今日食べるものにすら事欠く人口が相当数に上ることが予想される。こうした現状では庶民が雇用環境が良い、失業率は高くないと認識しにくく、失業率が示す定義の中身を理解しなければ肌感覚として納得できない者がいてもしょうがないとさえいえる。

もし読者の中にケニア在住の方がいるならば、『公式統計』である7.4%という数字をケニア人に伝えてみてはどうだろうか。呆れられるか、怒られるか、笑われてしまうか。その反応こそが本記事で指摘するズレである。

筆者: 長谷川 将士

経済・社会

Posted by HasegawaMasashi