衛星データが牧畜民を救う、水と牧草を示す最先端の『羅針盤』

多くの途上国がそうであるように、アフリカ諸国は急速に最先端テクノロジーを吸収しつつある。

その一方でアフリカ牧畜民にテクノロジーが浸透する速度は比較的遅く、独自の文化や移動社会がキャッチアップの障害となっているという指摘もある。

牧畜民は家畜を保有しながら乾燥した大地を移動しながら生活し、五感と経験から天候の変化を読み取り、水や草を求めて柔軟に生活地域を変える。しかし、昨今の異常気象によりこれまで考えられなかった変化が生じており、水不足や飢餓が彼らを直撃している。

移動の下見はスカウティングと呼ばれ、マサイ人の若者の場合は3日から5日かけて数百キロを移動して飼育に最適な土地を探し出す。しかし、近年ではいくら歩き回っても家畜を養うための土地を探すことが難しくなっている。また、地域の住民との間で資源を巡る争いが激化し、時に衝突や暴力へと進展するケースが増加している。

今年3月には干ばつがケニア北東部を襲い、多数の餓死者が発生した。国家干ばつ管理局の発表によれば、12州で深刻な被害が発生し、約110万人が飢餓の危機に直面し、乾燥地域で暮らすことの多い牧畜民が主な被害者となった。依然としてインフラが脆弱なケニアでは、干ばつと飢餓の発生が常態化しているものの、根本的な改善策は未だ実行されていないのが現状だ。

牧畜民の生活に登場した衛星データマッピング

こうした現状を変えるために立ち上がったのがPCI(Project Concern International)だ。開発機関であるPCIは多数の開発プロジェクト、ソーシャルビジネスを手掛けており、ケニアではテクノロジーを使うことで牧畜民の生計を向上させる取り組みを行っている。2013年に開発された衛星データを使うことで牧畜民の資源管理をサポートするアフリスカウトというプロジェクトを展開しており、マッピングされた資源情報を地域コミュニティに配信している。

ケニアを担当するマネージングダイレクターのブレンダ・ワンデラ氏はアフリスカウトの意義を次のように説明する。

「これまでのテストから、私たちはマッピングされた情報が極めて大きな影響を与えることを確認しています。家畜の死亡率は従来24%から25%ほどでしたが、マッピング情報を活用することで11%にまで低下し、住民間の衝突を防ぎ、スカウティングのための時間を大幅に節約することに成功しました。

しかし、同時に課題もあります。情報を伝えたコミュニティリーダーなどが病気や体調不良でコミュニティへの情報伝達が遅れる場合があり、加えてマッピング情報を紙に印刷するお金がない場合はこの手法は効果的ではないのです。そのため、2017年10月からアフリスカウトを開始し、情報のデジタル化を推し進めています」

牧畜民の居住地域で生まれ育ったブレンダ氏。アフリスカウトに大きな情熱を注いでいる。

アフリスカウトはスマートフォンを通じてアプリから情報を発信している。衛星データから牧草や水など家畜の飼育に関わるデータを送り、デジタル化されたマップが利用者へと届けられる。開発には牧畜民から念入りに聞き取りを行い、スマートフォンや衛星データに馴染みのないユーザーにも手軽に利用できるように調整されている。

「牧畜民コミュニティと緊密に連携したおかげで、文字が読めない人やデジタル機器を使うことのなかった人々でも使用可能なシステムが構築できました。工夫した点は色分けを多用することで、草や水が多くある地域を一目で判別することができることです」

アフリスカウトのアプリを説明するパンフレット。©PCI

安全保障にも活用、警報で危険を周知

アフリスカウトの特徴は情報を家畜の飼育のみならず、住民の安全保障のために使用している点だ。突発的な災害、干ばつ等による被害を抑えるため、ユーザー同士が連絡を取り合い、必要に応じて警報を発信する機能が組み込まれている。衛星データに頼るだけでなく、住民相互のコミュニケーションにより有益な情報が積み重ねられることで、マッピングは更に充実していく。

「エボラ熱などの疫病や猛獣の出現、立ち入り禁止地域等、警報機能は非常に有益です。ケニアの州政府ではすでにアフリスカウトを導入し、住民の安全を守る取り組みを進めているところもあります」

広大な土地を渡り歩く牧畜民だが、電波が届かない地域で居住する者も多い。アフリスカウトはこの問題に対処するため、オフラインでも利用可能な機能を加えている。これは一度受信したマッピングデータをそのままスマートフォン内に記録し、電波の有無に関わらず使用可能にしたものだ。

マッピング情報は約10日ごとに更新されるため、例えばスマートフォンの充電のため近場の市場に行く際にマッピングを更新するといった具合で受信を行えば事足りる。マッピング更新は大きくて10キロバイト、大体5キロバイト程度とデータ容量を抑えており、牧畜民の利用状況を考えた重要な工夫だ。

ブレンダ氏によれば、牧畜民であっても都市部にいる子どもやいとこなど、ほとんどの世帯が何らかの形でスマートフォンと繋がっている。そのためスマートフォンを持っている知り合いからマッピング情報を伝えてもらうことで、スマートフォンを保有していない牧畜民でも情報にアクセスしているケースもあるという。

アフリスカウトはダウンロード後6ヵ月間まで自由に利用でき、その後は年間3000シリング(約3300シリング)を課金することで使用を継続できる。

「牧畜民に3000シリングという料金は支払えないという意見を多く聞きます。しかし、アフリスカウトを使用することで家畜の死亡率を下げ、飼育した家畜を市場に売れば簡単にペイできる金額です。つまり3000シリングではなく『ヤギ一頭』と釣り合う値段か、で考えてほしいと思います」

現在ケニアでアフリスカウトが使用されている地域を拡大している。カジアド、サンブル、イシオロ、マルサビットなど乾燥地域が多く、ユーザー数は増え始めている。エチオピアやタンザニア南部ではすでに導入されているが、ケニア南部ではSNSを中心にセーフティーネットが存在しているため、アフリスカウトは進出を再検討している。

現在のユーザー数はケニアで5900人、タンザニアとエチオピアを合わせて1000人程度と、これからの事業拡大には課題が残っている。今後はアフリカ全土に同サービスを広め、より多くの牧畜民の生計を助ける予定だという。

アフリスカウトのプロジェクトにはグーグルやUSAIDといったパートナーがサポートしており、安定した運営体制を築いている。そのため長期的な戦略でアフリカ牧畜民の生活を支えることにコミットできている状況だ。

現在でも伝統が色濃く残っている牧畜民社会に新たに登場した衛星データマッピングアプリ。生活の中で異常気象に直面している人々を救う可能性を秘めたアフリスカウトが彼らの羅針盤となり、天の恵みを最大限活用できる未来が待っているかもしれない。

筆者: Rahab Gakuru

翻訳: 長谷川 将士

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Posted by HasegawaMasashi