「賄賂かムショ行きか選べ」、野放しの権力にさらされる路上の物売り達

たとえばある日、外国人のあなたはナイロビのダウンタウンを歩いていたとしよう。前方からいきなり、服や靴、おもちゃや人形をまとめ、大きな荷物を抱えながら大慌てで走ってくる人たちを見かけたとする。さて、あなたが取るべき行動は何か?もちろん彼らが走ってくる方向とは逆に走り出し、建物やレストランの中に逃げ込むことだ。なぜなら、正面から『市の犬』どもがやってきて、外国人のあなたを脅し始めるだろうから。

綺麗なオフィス、安定した給料をもらって不自由なく働いている者がいる一方、雑多な路上で、空腹と明日の生活に不安を抱えながら汗を流す者もいる。ケニアでは後者の場合、彼らを最も脅かす存在は貧困でも不安定な生活でもなく、カンジョ(ナイロビ市議会、あるいはCity councilと呼ばれる)、またの名は『市の犬ども』であったりする。

本来市民の保護を期待されるはずの市議会ではあるが、その実態は権力を濫用しつつ執拗に賄賂(わいろ)をせびろうとする、路上の物売りからすれば悪質極まりない存在だ。

ナイロビ市内の路上で物売りをする者たち。

誰が路上の物売りを守るか?

路上の物売りが多く活動しているのはナイロビ市の中心部やダウンタウンだ。彼らの権利と保護を叫ぶ団体は既に複数あり、たとえばKENASVIT(Kenya National Alliance of Street Vendors and Informal Traders)は路上の物売りやインフォーマルセクターの人々の救済を目的として設立された。4万人以上の会員を抱えるKENASVITはアンブレラ組織で、幹部を務めるサミュエル・ムブル氏に話を聞けば政府や政策に働きかけ、脆弱な立場にいる会員の立場を向上させるために活動しているという。

「KENASVITは交渉やビジネスマネジメント、路上で売春をする女性が性犯罪に巻き込まれるのを防ぐといった活動を展開しています。彼らには彼らの権利がある。そうした権利とは何か、権利を守るためには何をすべきかを教えています」

サミュエル氏によれば、路上の物売りたちは過酷な状況の中で生き残らなければならないという。他の物売りからのいやがらせ、不当な賄賂要求、性犯罪など問題を挙げていけばキリがない。

「働く場所がないから路上に出て物売りをしている訳です。他にどこにも行く場所はありません。そこを市議会の連中が狙い、賄賂を要求していきます。

通常の手口はこうです。市議会のメンバーは物売りを見つけたら、有無を言わせずに拘束し、ミニバンに乗せてあからさまに賄賂をねだります。金を払わなければムショ行きだぞ、と。もし裁判所まで連れていかれたら罰金として約1万シリングを払わなければなりません。だから物売りは彼らの要求に従い、一人頭千シリングを支払ってようやく解放されるのです」

サミュエル氏はさらに、市議会による女性への性的暴行が問題になっていると指摘する。金が無ければ体で支払えと迫り、最悪の場合はレイプや暴行にまで発展し、『市の犬ども』は正に飢えた獣のようだと非難する。

唯一の生活手段が路上で物売りをすることである彼らにとって拒否権はなく、生殺与奪は市議会に握られている状況だ。KENASVITはこの問題を解決しようと取り組み続けているものの、一度利益にありついた者たちが牛耳る既得権を解体することは至難だという。

KENASVIT の幹部を務めるサミュエル氏

物売りを脅かす、『権力の犬』たち

いくら権利や保護を叫んでも、路上で物売りをする彼らを守るものはいない。スーザン・ニャンブラ氏は路上の現実を次のように説明してくれた。

「もう15年もこの商売をやっているよ。私はシングルマザーで二人の子どもを育てている。この商売のおかげで何とか高校まで行かせることができたよ、大学までは流石に無理だったけどね。

市議会の奴らはいつも私達に嫌がらせしてきて、金を吸い取っていくのさ。運が悪ければ一日に三回も奴らに捕まり、その度に賄賂を払わなければいけない。本当にうんざりするけど、金を払わなかったら捕まって刑務所へ連れていかれるだけ。そうしたら誰が子どもたちを食わせてやれるのさ?」

市議会の横暴に憤慨するスーザン氏。

スーザン氏はKENASVITを評価しておらず、保護や政府との交渉が見せかけだけになっていると憤慨する。確かな解決策も見いだせないまま市議会の目を盗みつつ商売を行い、明日がきっと良くなることを祈るだけだと、力なくつぶやいた。

マリー・ワンブイ氏も二人の子どもを持つシングルマザーで、17年間路上を物売りをしてきた。この『決して終わらない、いたちごっこ』についてどう思っているのだろうか

「私達を捕まえる人達は、決してことを明るみに出そうとしません。彼らは権力に守られていて、必要になれば金を奪い取ろうとする。もうやりたい放題ですよ。この商売をするときは賄賂用のお金に500シリングから1000シリングを持ち歩かなければなりません。家で待つ子ども達のためにも捕まる訳にいきませんから」

名ばかりの許可、無意味な紙切れ

ほとんどの場合、市議会が路上の物売りに目をつける理由は彼らが販売許可証をもっていないためだ。彼らインフォーマルセクターに従事している者たちは許認可の間をすり抜けるようにして商売を行い、生計を立てている。しかし、路上という『無法地帯』ではたとえ許可証をもっていたとしても、それは紙切れと同じくらいの価値しかない。

靴磨きとして路上で働いているエリウッド・グティト氏は許可証を持っていたが、許可など取るだけ無駄だと嘆く。

「市議会が発行する許可証を取るのは簡単だよ。たった2500シリング払えば取れるからね。問題は許可証を取っても後から市議会の連中がやってきて、難癖をつけて許可証を取り上げちまうんだ。そして許可証を取り上げたらお決まりの賄賂だよ。俺は以前許可証を取り上げられたが、もちろん取り返すことなんてできなかった。結局、許可証があってもなくても日々の食い扶持の中から市議会の奴らに金を払わなきゃいけないって訳さ」

かつては許可証を持っていたエリウッド氏(左)。この先許可を取ることはないだろう。

ケニアのように公的制度が存在しつつも、政府がそれを取りまったり管理したりする能力が低い国ではこのようなことがよく起こる。一部の権力者が権力を私物化し、自らの私服を肥やすためだけに都合の良い制度を勝手に作り上げ、強制的に市民を従わせる。こうした状況では市民が政府や公的機関を信頼できるはずもなく、長期的には税収能力の低下や暴動の増加、あるいは国家運営そのものに強く影響を及ぼすことになる。

ほんの5キロもナイロビの西にいけば、そこには外国人や外資系企業に勤めるケニア人が安全で優雅に暮らし、権力の犬に追われることのない街がある。しかし、路上で生き抜く彼らにとって、それはまるで隣の国に行くほど遠い。路上の物売り達は市議会に追われながら、今日を生き抜くしかないという日常を送っている。

筆者: Mohammed nyarigu

翻訳: 長谷川 将士