元グーグル社員の創設者が実現した、インフォーマルワーカーに1憶6千万シリングの仕事を提供した方法

アリババグループの創設者、ジャック・マーといえばもはや説明する必要はないだろう。彼が一昨年ナイロビ大学で講義を行った時、アフリカ問題についてこんなことを語ったという。

アフリカの貧弱なインフラ、社会、経済、政治的な状況は多くの起業家にとってイノベーションの源(みなもと)にするべきものである。それはちょうど、彼がオンラインショッピングというものが無かった当時の中国でアリババを立ち上げたように、何もないところにこそ、起業家の居場所があると伝えたかったのだろう。

彼は更にこう続けた。もし政府が様々な問題に対して解決策を持っていないときこそ好機である。人々が不満ばかりを嘆くとき、そのタイミングこそがチャンスなのだ、と。

元グーグル職員が出会ったナイロビでのユニークな問題

2014年、グーグルで働いていたアダム・グルンワルト氏はナイロビで『ユニークな問題』に直面していた。彼は家政婦のルースを雇っていて、週に二回部屋の掃除を頼んでいた。真面目に仕事をこなしていたルースだったが頻繁に給料の前借りや賃上げをねだるようになり、なぜこれほど働き者の彼女がお金に困っているのか疑問に感じたという。しかし、次第にアダム氏はどれほどルースのようなインフォーマルワーカーがギリギリの生活を送っているかを理解するようになっていった。

身近で働いている人が不安定な生活を送っていることに気付いたアダム氏はこの問題を何とかしようという気になり、2015年にグーグルを退社してドイツで会社を始めた。会社はLynkと名付けられ、インフォーマルセクターにイノベーションを持ち込むため2016年からケニアで活動を開始した。

ケニア国家統計局によれば、全労働者の内、実に約83%が不安定なインフォーマルセクターで働いている。こうしたインフォーマルワーカーは低賃金、低スキルに苦しみ、明日をも知れぬ生活を送っているという共通点がある。

Lynkはインフォーマルワーカーのためデジタルプラットフォームを基軸に、受発注を仲介するシステムを展開することから始めた。同社マーケティング部長を務めるムリナリニ・アグニホートリ氏によれば、このプラットフォームはインフォーマルワーカーたちに信頼と安定した雇用機会を与えるために始められたものだという。

「ケニアでは質の良い、信頼できる仕事を行うインフォーマルワーカーが大勢います。ただ、彼らの仕事ぶりを示すものが無いのです。義務教育を受けた者であればリンクドインで立派な経歴をアピールすることができますが、彼らにはそうした経歴を培う土壌が与えられていません。Lynkはインフォーマルワーカー達が自らのキャリアを積み上げることができる環境を与えるため、このプラットフォームを始めました」

同社の庭で仕事を進めるムリナリニ氏

プラットフォームにはこれまでインフォーマルワーカーが行ってきた仕事の履歴、保持しているスキル、資格証明書などが載せてあり、発注者側の満足度によるレーティングが確認できる。仕事の種類は美容師、配管工、下位政府、電気工、庭師など72項目に分けられており、SMSを通じて発注内容が共有される仕組みをとっている。

「(スマートフォンが無くても)携帯電話さえあれば誰でもLynkで働くことが出来ます。お客様からのフィードバックを常に反映し、優れたワーカーはより多くの仕事と賃金が得られる仕組みです。もしお客様が仕事に不満を感じれば、30日以内であれば返金と解約を行うことが出来るため、気軽に利用することが出来ます」

オンラインショップも工房も、自社展開で信頼と高品質を提供

Lynkの特徴は単に仕事の受発注を仲介するに留まらず、自社で店舗や工房を持つことで商品やサービスの信頼と質を担保している点だ。プラットフォームを通じて常時600人以上の職人が商品を提供しているオンラインショップでは家具や衣類、小物などがウェブサイト上に陳列されている。ムリナリニ氏によればオンラインショップへの加入を望む職人は後を絶たないが、スキルや商品の出来が基準に届かない職人は断らざるを得ない状況だという。技術の習得が必要な職人にはトレーニングの機会を設け、スキル向上を促している。

Lynkが運営するオンラインショップ。お客からの反応は良好だ。© Lynk

2016年にLynkが事業を始めて以降、これまで受注した回数は2万5千回以上、1憶6千万シリング以上がインフォーマルワーカーの賃金として支払われてきた。Lynkに支払う手数料は大体10%程度で、残りは全て報酬となる。

「平均的な労働者ですと、年間13万シリング程度の賃金が得られています。これはLynkに加入していないインフォーマルワーカーの2倍から3倍の額になります。私達が提供しているものは仕事の機会だけではなく、品質管理や仕事で求められる水準を高めるための自覚、相場などの知識です。また、加入メンバーのために自社の工房を開放しており、定期的に受注をしている者は自由に使用可能です」

同社の工房。ここでは家具や小物などが職人たちによって作られている

Lynkが最近注力しているのはネイルケアだ。ハイエンドからローエンドのネイルサロンを調査した後、同社は一回500シリングでネイルケアが行えるサービスを始めた。ムリナリニ氏は顧客にもワーカーにも公平な値付けをしたかったと説明しており、「もしワーカーが家まで来て500シリングでネイルケアをしてもらえると聞けば安いと感じるかもしれないが、街のサロンでも大体この値段だ」と語る。職業訓練に力を入れており、質の良い仕事を提供できていると自負している。

インスタグラムでネイルケアサービスを宣伝。マニキュアだけでなくペディキュアも人気が出始めている。© Lynk

Lynkの目的は利益を拡大することではなく、ケニアのインフォーマルワーカーに安定して職を提供することだ。ターゲットとする顧客はアッパー層からミドルアッパー層で、団体や企業からの注文を受けることもあるという。現在同社はワーカーの経歴と成長に応じて、保険やローンサービスを提供する取り組みを始めようとしている。

職業訓練、自社展開、さらには保険やローンサービスに至るまで、信頼できる強固なプラットフォームを構築することに成功したLynkの活動はこれからも広まっていくだろう。インフォーマルワーカーが多いアフリカ諸国で同社の事業は経済構造を変える可能性すらあるといえる。同社が新たに繋げていく可能性に期待したい。

筆者: Rahab Gakuru

翻訳: 長谷川 将士

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Posted by HasegawaMasashi