<コラム> 政府に怒りの声続出、『青写真』のツケは誰が支払うべきか

一昨日、弊社の顧問税理士からメッセージが入った。内容は「来月から政府が住宅基金の資金集めのため、雇用者、被雇用者の所得から1.5%を徴収すると発表した」というもの。来月まで半月もないこのタイミングで突発的な発表、案の定、職業団体を中心に猛烈な反発を招いている。

この発表に社会がどれだけ敏感に反応しているか。ケニア国内の主要メディアはこの問題を大々的に報道し、英国BBCが取り上げるなど注目度の大きさを物語っている。

政府主導、トップダウンの急な法令指示が市民に受け入れられるはずもないが、この問題の本質はどこにあるのだろうか。結論から言えば、公約にあった政策実現性の低さ、そして、肝心の政府が信頼を欠いていることに焦点が当てられている状況だ。

疑問視されていた青写真

『ケニア人が簡単に家を手に入れられるように』として始まった住宅建設プロジェクトは、現政権が『ビッグ4』として掲げた大統領肝いりの政策だ。製造業の振興、食の安全保障、誰もが享受(きょうじゅ)できる保健衛生という柱の一つとしてこの住宅建設プロジェクトは推し進められてきたという背景があり、政権としては是が非でも実現し、国民の支持を得たいという考えがある。

こうして注目を集めたビッグ4だったが、公約発表の直後から「本当に実現可能な政策なのか」、「財源をどうするのか」という指摘が一部から発せられていた。巨額の財政出動が必要なことに加え、GDPの半分以上に膨れ上がった債務、税収目標が目標に到達しない等、実現を疑問視せざるを得ない材料は数多くある。華々しい政策は『青写真』として捉えられ始め、国民の期待に応えるものには未だなり得ていない。

実はこの住宅基金の徴収は昨年末からすでに話題となっていた。今回と同様の発表を政府が行った後、労働裁判所が12月に差し止めを行い、事態は沈静化したとみられていた。この実質的課税をここまで『所得からの徴収』と表したのにはウフル大統領の苦しい言い訳が理由としてある。昨年末スター紙は大統領の発言を取り上げ、「これは今までみなされてきた税金の様なものではなく、家を持つための貯金や寄付のようなものだということを国民に伝えたい」と報じた。しかし、この発言に頷(うなず)く国民が果たしてどれほどいるだろうか。そこへ来て今回の『課税』の発表、市民が怒りを覚えるのも無理はないだろう。

信頼無き政府に誰が金を渡すか?

理屈で考えるならば、国民から税金を徴収したとしても、政策として国民がリターンを得られるならば何も問題のないことである。しかも、今回の件では対象は国民への住宅普及のはずだ。だが、ほとんどのケニア人はこの理屈に同意しないだろう。なぜなら、ケニアでは税金は政治家やステークホルダーの懐に納まるものと相場が決まっているからだ。

新聞を開けば政治家や役人の汚職の話題で溢れており、国民からすれば「税金を挙げる前に、先ずは汚職をどうにかしろ!」と言いたくなることだろう。今回の法令を担当する住宅及び都市開発局の書記長チャールズ・ヒンガ氏は昨日NTVの公開討論で「今回の『寄付』はあなたに直接戻ってくるものです。あなたが家を持とうが持たなかろうが、このお金はあなたのところへ戻ってきます」と理解を求めたが、Twitterで流れる市民からの反応は皮肉なものだ。中には政府を『詐欺師』呼ばわりし、徹底抗戦の意思を表すものも少なくない。

汚職に消えるお金は支払えない、ただでさえ生活は苦しいのに。そんな本音がSNS上からすすけて見えてくる。問題の根幹には、市民が信頼できる政府ではない、という長年の課題が横たわっている。

政府を詐欺師呼ばわりし、反対を表明するツイート。

力で押さえつけるか、もしくは?

この法令に対して、ケニア雇用者連盟、ケニア看護師連合などの職業団体が反対声明を行い、労働裁判所が改めて差し止めを行った。しかし、二度に渡る『強硬突破』を試みた政府の懐事情は周囲が想像している以上に厳しいのかもしれない。無い袖は振れないとばかりに新たに課税を試みる可能性が残っており、政府と市民の溝は大きくなるばかりだろう。

ペーパー上で確保されている財源は本当に確保されているのか、財源があってもそれがプロジェクトに本当に使われるのか、国民の声を無視して政府が強権を発動するのではないか。今回の法令に端を発っする問題は、ケニア政府が抱える問題の典型といえるものだ。

汚職撲滅に積極的に取り組む姿勢を示すケニヤッタ政権。財源確保のために力で押さえつける道を選ぶか、それとも透明性の向上を通じて国民の信頼を得る道をとるか。どちらの道を選んでも国民の信頼を得るには長い長い時間がかかりそうだ。

筆者: 長谷川 将士

経済・社会

Posted by HasegawaMasashi