タイム紙が選ぶ『天才的な企業』に選出、アフリカ政府でリープフロッグが進行中

世界中でデジタル化が進んでいる中、政府レベルで情報の精度と多様性を確保し、効果的な政策立案と実行を促そうという動きが活発化している。その一方で多くのアフリカ諸国では統計関連の予算が限られており、精度に信頼のおけないデータに頼らざるを得ない状況、あるいはデータそのものが存在しない状況がしばしば確認されている。

国家の状況を正確に把握し、適切な政策運営を行うためには統計は欠かすことのできないものだ。正確な統計データを安価で手に入れることは国家の発展のためにアフリカ諸国が成し得なければならない重要事項とさえいえる。

このアフリカ諸国の共通課題に対して、テクノロジーの力でこの問題を解決しようとしているのがオナ(ONA)だ。同社はソフトウェア開発やデータ解析を通じて政府やNGOの活動を支援する社会的企業。取り扱うデータは主に保健衛生、教育、災害管理分野等で、適切なプロジェクト運営の根拠となる情報を提供している。

同社はアマゾンやナイキ、任天堂などそうそうたる顔ぶれが選出される中、タイム紙が選ぶ『2018年度天才的な企業』としてイノベーション領域での活躍が期待されている。アフリカからは5社が選ばれたが、その中の一社が設立してまだ数年しか経っていないオナで、これは先日ニューヨーク証券に上場を果たしたe-commerce企業ジュミアでさえ成し遂げていない快挙だ。

コロンビア大発、舞台はアフリカ

オナの始まりはコロンビア大学でマット・バーグ、ピーター・ㇽべール・ドウティ、そしてロジャー・ウォンが出会ったことだった。彼らはアフリカ及びインドにおける開発プロジェクトに取り組む中、デジタル技術を用いたデータ収集の必要性に気付き、2014年にオナを立ち上げた。ナイロビとニューヨークに拠点を構えており、最先端技術とアフリカ諸国が直面する現実という橋渡しを行っている。

現在は100以上の機関でオナが提供するデータは使われており、USAIDやDFID、WHOやユニセフといった援助機関から、赤十字やフィード・ザ・チルドレンといったNGO、そしてケニア保健省といった政府機関など、ユーザーは多彩だ。

同社の事業は主に特定地域のデータ収集と解析を行い、クライアントがプロジェクトや政策立案に必要な情報を提供している。ケニアではユニセフの支援によりSIR(Social Intelligence Reporting)と呼ばれるシステムを一部省庁に提供しており、統計データを基に効果的な予算配分と実際に予算が使用されたかという透明性を担保するために活用されている。

顧客ソリューション部門のディレクターを務めるエリック・ングウィリ氏はこのシステムを通じて、サブ・カウンティの公務員がコミュニティレベルで学校や保健衛生に関するデータを、スマートフォンを通じて簡単に確認できていると説明する。これまで紙でまとめられていた統計データはオンライン上で確認できるようになり、資料探しに走り回ることも紛失を心配することもなくなった。そして、不明瞭で根拠に乏しかった予算配分は統計データによって根拠を明確にすることができている。

オナの顧客ソリューション部ディレクターのエリック氏(右)とオペレーションマネージャーのロサリア氏(左)

SIRの情報はエンジニアチームによって常にアップデートされており、エリック氏はSIRを次のように説明する。

「例えば地方の病院に訪問した際、SIRには実際に使用可能な医療機器、収容可能人数、対処可能な医療分野、そしてコストがどれだけかかっているか等についての情報がアップデートされます。最新の現場情報を基にすることで適切な予算配分と生産性を最大限高めることができるのです」

また、オナは赤十字等の依頼を受けて、生徒の栄養状況に関する情報を提供している。SRP(Open Smart Registration Program)というソフトウェアシステムを通じてコミュニティワーカーと連携し、対象となるターゲットの健康関連情報をアップデートすることで、現場に届くプロジェクト運営を行っている。

SRPは既にグローバル展開をしており、例えばタンザニアではNGOと連携して5歳以下の乳幼児データを登録しており、これまで27万人以上の統計データを得ている。

ユニセフ等とのSIR活用に向けたミーティング。©ONA

データの一括化と可視化、応用可能性に期待

オナが提供するもう一つのシステムはキャノピー(Canopy)だ。これは人道支援と人間開発に関わるデータを可視化したもので、様々な情報ソースを一括してまとめ、グラフや表で一目で分かるようにした。エリック氏はモザンビークの事例を引き合いにキャノピーの活用方法を説明する。

「モザンビークでキャノピーは保健省に対して提供されています。元々彼らが集めたデータは統一されたものではなかったため、一つのデータ項目として確認するために7つの情報ソースを確認する必要がありました。キャノピーはこれを一つのデータボードに一括し、自動的に情報が更新されるようにしました。今では同省の職員自らが自発的に意思決定ができるようになり、ワクチンの供給では配布地域、在庫個数、使用個数と不良個数などのデータを財政データと組み合わせた指標を活用しています」

オナは使用データ毎の個数によりユーザーから使用料金を得るというモデルを採用している。たとえば500個までのデータ(n=500)ならば無料で提供し、500以上5,000個未満のデータには月99ドル、5,000以上25,000未満のデータならば月199ドルを支払う。それ以外にも顧客の要望に応じてソフトウェアを調整し、収益化へとつなげている。

既に実績豊富なオナだが、市場ニーズを把握するためにはまだ改善が必要だという。同社オペレーション・マネーであるロサリア・ローレンゼン氏は「私たちは地域コミュニティと直接働いている訳ではないため、市場ニーズの把握は十分ではありません。クライアント側とミーティングを重ねることで改善を進めている段階です」と説明する。

また、クライアント側で最先端テクノロジーを取り入れるスピードを上げるための取り組みを必要としているとし、同社が提供するデータをより幅広い分野で活用してもらうための工夫が必要だと考えている。

政府や省運営のためのリソースや基盤が乏しいアフリカだが、それは最先端技術をスムーズに受け入れやすいことの裏返しだ。日本の省庁でも紙ベースでの近時代的な手続きや運営が度々問題に挙げられている中、オナのユーザーは最短でデジタル化への道をひた走っている。

アフリカの地方行政府が先進国の省庁よりも進んだデジタル化を実現する。そうしたイメージはもはや夢物語ではない時代に突入している。

オナのオフィス風景。ケニア人エンジニアを中心に欧米系、アジア系エンジニアが開発を進めている

 筆者:Lilian Museka、長谷川 将士

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Posted by HasegawaMasashi