サンダル少年が伝える「Football is my life」の意味 -本田SOLTILOの練習現場で見た、サッカーが持つ力(ちから) -

本田圭佑が主催することで注目を集めるAFRICA DREAM SOCCER TOUR。ナイロビの練習現場にはキベラスラムから歩いてやってくる子供たちで溢れていた。小柄な子も大柄な子もいる。年齢も入り混じっている。ただ、皆が夢中でボールを追いかけ、相手に食らいつき、ゴールを狙い、全身でサッカーをしていることは一目で分かった。

かつてサッカー小僧だった筆者はボールに夢中になる少年の姿を眺めていて、今までこれほど楽しそうにサッカーをしている子ども達を見たことがあっただろうか、と思い返していた。

全てのサッカーが好きな人々にこの現場を見てほしい、私たちのサッカーはこんなにも面白いものだから。久しく忘れかけていたサッカーへの熱狂を、子ども達が教えてくれた。

スパイク、サンダル、裸足

晴れた日曜の昼下がり、SOLTILOがケニアで手掛けるサッカー教室が始まった。あの本田圭佑が率いることで有名な同社は昨年社名を変更したが、その後も変わらずにアフリカを巡回しつつ、定期的に子どもたちに向けてサッカー教室を開き続けている。昨日の土砂りの影響はグラウンドの端にある水たまりくらいで、子ども達は土煙を上げながら元気にボールを追いかけている。

SOLTILOが派遣する日本人コーチ、本松大地氏がホイッスルを鳴らすと子供たちが集まり、簡単なミーテイングをした後、ウォーミングアップを開始した。彼らの足元を見ればサッカースパイクだけではなく、ゴムサンダルや、中には裸足の子ども達もいた。

サッカー教室に集まる子供達はアフリカ最大ともいわれるキベラスラムに住む子供たちで、高価なスパイクを手に入れることは難しい。左右揃ったスパイクを履いた子どもは全体の7割ほど、中にはサイズの合わないスパイクや左右で違う種類のスパイクを履きながらプレーする子供たちもいる。それでも皆は目を爛々と光らせてサッカーに興じている。ボールがあれば、すぐに笑顔になる。

サイズの合わないスパイクに苦戦し、片方裸足でプレーする少年。

年齢も体格も関係ない、ストリートスタイルのサッカー

ウォーミングアップが終わればすぐにミニゲームが始まった。年齢も体格も靴もばらばらな子ども達が一つのコート上でプレーをする。SOLTIOのサッカー教室が始まるまで専門的なトレーニングを受けてこなかった彼らだが、とにかく一対一に強く、激しい。プレーの中でコーチから教えてもらったフェイントを駆使する場面も見られたが、体の向きやスピードの変化を使いこなしながら、ダイナミックにゴールへと向かっていくスタイルの様だ。

本松コーチは子ども達のプレーについて「日本の同年代と比べるとテクニックは劣るが、相手をドリブルで抜いたりかわす、とにかくゴールを奪うという実践的な部分が上手い。逆に日本の子供たちはテクニックがあるけども、それを実践で使い切れていない場面がある」と語る。ストリートのサッカーでは体格や年齢が一回りも違う相手に対してでも自分のプレーをしなければならない。もっと言うならばスパイクを履いているかどうかも関係ない。

抜けない相手、止められない相手にも挑み続ける姿はサッカーというスポーツの枠を超えたものを伝えてくれる様だった。

年長の相手に果敢に挑む少年、思い切りのいいプレーを披露した。

片道2時間の道のりを通う、サンダル少年が語ったこと

激しいゲームを終えた後はクールダウンをし、練習が終わった。一息ついた子ども達に話を聞いてみると、興奮冷めやらぬといった感じで次々と質問に答えてくれた。

多くの子どもはプレミアリーグのチームのファンで、マンUやリバプールといったお気に入りのチームがある。子供たちが楽しみにしているのは週末の時間、テレビで放送されるプレミアリーグの試合を見ること。平日は学校や宿題、家族の手伝いがあるため、子どもだって忙しいのだ。

彼らが住むキベラスラムから練習グラウンドまではそれなりの距離がある。ほとんどが徒歩で通い、片道2時間をかけてサッカーをしにくる子もいる。大人でも大変だが、ましてや子どもの足でそれだけ歩いて通うのは簡単なことではない。それでも子ども達は嬉しそうに答えてくれた。サッカーができるのが楽しくてハッピーなんだ、と。

SOLTIOがトレーニングを提供する前まで、彼らの『グラウンド』は家の周りの路地だった。超過密とまでいわれるキベラスラムに、子ども達が思い切り走り、ボールを蹴るスペースはない。地方からの出稼ぎやナイロビ市内の人口が増える一方で仕事の数は限られており、職にあぶれた人々が次々とスラムに住みだしていることで、スラム人口の増加に歯止めがかかっていない状況だ。彼らにとって高価なサッカーボール、自由に動き回れるグラウンドが手に入るならば、片道2時間は問題にならないのかもしれない。

あるゴムサンダルを履いた少年は「Football is my life(サッカーは人生だ)」と語った。大人しい性格の子どもが呟いた一言だったが、彼の言葉から実感と重みがズシッと音を立てて伝わってきた。

スラムの暮らしは子どもに対しても容赦がない。お金が無くて学校に通えなかったり、シンナーや銃声が生活のすぐ隣にあったり、貧しさの中で犯罪へと身を投じたりして、身を持ち崩す例は枚挙に暇がない。それでも、テレビの向こう側のスーパープレイヤ―の一挙手一投足に興奮し、好きなサッカーを広々としたグランドでやれる。それが彼の人生だ。心から興奮できる瞬間はテレビの前か、グラウンドの上にある。

サッカーの可能性、子ども達の可能性

「最初はマーカーを置いていても荷物を運んでいてもただ見ていた子ども達だったが、今では何も言わずに手伝ってくれている。少しずつ戦術を理解して自分の考えを伝えるようになってきた。彼らが成長し、変わってきていることを感じる」と本松氏は語る。

SOLTIOが提供するAFRICA DREAM SOCCER TOURから、地元のサッカースクールへ入部を許された子供たちが次々と生まれている。SOLTIOが『グラウンド上のサッカー』を持ち込んだことで彼らの生活は変わったが、サッカーを通じて彼ら自身も変わっているようだ。

提携しているクラブコーチ(左)と本松氏(右)に戦術を説明する子ども。
後に提携クラブへの加入が認められた。

日本サッカーの父とも呼ばれるデットマール・クラマーはかつて、「サッカーは少年を大人にし、大人を紳士にするスポーツだ」と言った。サッカーを通じて大人となったかつての子供たちはこれまで数えきれないほどいるだろう。

しかし、子どもたちがプレーする姿を目の当たりにして、サッカーは大人を子どもにするスポーツでもあるのではないかという気持ちが沸き上がった。青空の下でだだっ広いグラウンドを駆け抜け、無我夢中でボールを追いかけていた日々を思い出したからだ。小難しい理由はいらなかった。訳が分からなくなるほど楽しかった。ちょうど今、子ども達がそうである様に。

本当はサッカーツアーの意義や今後の収益化についての話も伺っていたのだが、溢れんばかりの子ども達の笑顔に全てが吹き飛んでしまった。伝えたいことはこの写真一枚で事足りてしまう。サッカーには子どもをこんな顔にする力がある、それでいいじゃないだろうか。

溢れんばかりの笑顔を見せる子ども。サッカーと子どもの持つ可能性に触れた。

筆者:長谷川 将士

ノンフィクション

Posted by HasegawaMasashi