職人の意地ここに在り、ケニア映画界を支える『ブラックスミス』

華やかで、スキャンダラスで、活気にあふれる映画産業。アフリカで断トツで有名なのはナイジェリアの『ノリウッド』で、2018年に公開された父親からバス会社を引き継いだ女性経営者の奮闘を描いた『ライオンハート』がトロント国際映画祭で高い評価を受けたことは記憶に新しい。

今では国を支える新たな産業として期待が集まる一方、ケニアで映画産業が好調だという話はほとんど聞かない。政府による支援、設備や資金が不足しており、作られる映画は主にホームドラマの様なものが大半だ。

隣で仕事をするケニア人同僚に聞いてみたところ、ノリウッド映画は見たことがあるが、ケニア映画は見たことがないという。理由は「次の展開が見えてつまらなそうだから」らしいが、筆者には反論できるだけの材料を見つけることが出来なかった。

<ケニア映画界を支える黒子、ブラックスミスの想い>

未だ成長途上にあるケニア映画産業だが、より良い映画を撮るために映画界を支える職人が存在する。ポール・キフハ氏は2013年からナイロビの外れにオフィス兼工房を構え、映画関係者の間では有名なプロティサクリエーション(Pro Tisa Creations)を経営している。プロティサ社は撮影機材や小物の製作会社で、金属を加工して撮影台車やレプリカの銃、ナイフ等を作り続けている。

プロティサ社が製作する撮影台車。© Pro Tisa Creations

ポール氏は2002年に学校を中退し、金属加工の職人の道を選んだ。父親がブラックスミス(鍛冶職人)をしていたため、金属加工の知識と技術をメキメキと身に着けていき、職人として自信をつけた後に会社を設立した。

映画撮影の機材や小道具を作り始めたきっかけは、ポール氏自身がケニア映画のクオリティが低く、見終わった後にがっかりすることが多かったためだという。

「ケニア映画をもっと良いものにしたいと思ったんだ。例えば拳銃を撃つシーンでも止まったままじゃなく、動きながら撃つシーンを撮影できればもっとダイナミックになるでしょう?それまで見てきたケニア映画のクオリティに歯がゆさを感じていたから、自分の技術を使えば良いものにできるんじゃないかと思って機材製作を始めたんだよ」

プロティサ社のCEOを務めるポール・キフハ氏。ケニア映画界の重要人物の一人。

ポール氏が製作を始めた頃、映画関係者ならば当たり前に感じられる撮影台車やクレーンといった機材は、ケニア映画界では一般的ではなかった。三次元の空間で動きのある撮影は困難だったため、手に汗握るアクションシーン等は映画の中からすっぽり抜け落ちていた。ポール氏と彼が持ちこんだ撮影機材の登場により、ケニア映画界は次のステップへと進むことになる。

<クズ鉄から始まった製作がケニア映画を支える>

機材製作には軽金属と木材、ゴムを使うことが多い。会社設立時はローカルマーケットからクズ鉄を買ってきて加工していたが、今では資金に余裕が出てきたため上質な金属を使えるようになり、機材や小物の質がグンと上がった。一番需要がある小型の台車ならば一日で1、2個製作ができるという。価格はクライアントの予算次第だが、この頃は5万シリング(約5万5千円)から10万シリングの単品の依頼が多い。

ポール氏によれば、同社が製作している台車はケニア映画の撮影現場の半分以上で使用されているという。また、ミュージックビデオの撮影では80%以上で使われており、ポール氏はケニアの撮影現場を支えるブラックスミスとしての立ち位置を確立している。プロティサ社で製作販売している機材は海外製のものと比較すると価格が4分の1程度で安価かつ手作りで耐久性が高く、「質の高い金属素材を使っているから海外製に比べて10倍は持つ」とのことだ。

同社が製作した車両搭載カメラの機材。衝撃吸収にも優れ、手作りのため耐久性が高い。
© Pro Tisa Creations

<ケニア映画界を変える、未来への種まき>

プロティサ社は今では12名の社員を抱える工房となっており、注文が引っ切り無しに舞い込んでくる。若者を一端(いっぱし)の職人として育てることにも力を入れており、これまで46人の職人を独り立ちさせてきた。

「誰かからの助けをただ待っているだけの若者が、自分で問題解決できるように助けているだけさ。私は工房を持っているし、金属加工の技術もある。撮影の技術もかじってるから彼らを訓練して、ケニア映画界に少しでも貢献したいんだ」

注文された機材の製作にてんてこ舞いな日々。ケニア映画界で唯一無二の存在であるため、新しく機材や小物を作る工房を立ち上げてくれるパートナーが現れることを心待ちにしている。大好きな仕事を思う存分にできている毎日だからこそ、視点は自然と未来へと向けられている。ポール氏が夢見る未来は、職人を育て、ケニア人アーティストの手助けをし、ケニア映画界が発展することだ。

ケニア映画の評価は決して高いとは言えない。しかし、地場からはポール氏を始め、自らの才能を活かしてより良いものを作ろうとする動きが現れてきている。ケニア映画がトロント国際映画祭のような檜舞台で日の目を浴びるまでにはまだ時間がかかるだろう。だが、情熱を持ち続けながら来る未来を実現させるため、奮闘を続ける職人たちは着実に増えている。

記事を書き終えて、ケニア映画は見ないというケニア人同僚に一言伝えたくなった。これからのケニア映画は変わるかもしれない、注目するならば今からだ、と。

筆者:Monicah Nairesiae、長谷川 将士

経済・社会

Posted by HasegawaMasashi