発展の芽はあるか、町工場から考えるケニア工業化の道筋

21世紀に入ってから始まった好調な経済成長の反面、サブサハラアフリカ諸国の工業化はあまり進んでいない状況である。世銀のデータを参照するならば、2000年に名目約955億ドル(2010年レート換算)だった付加価値額が2017年には約1715億ドルにまで増大しており、一見すると急速かつ順調な成長を示している様に見えるが、対GDP比で見た製造業の付加価値額は2000年の約12.6%だったものが2017年には約10.2%にまで低下している。つまり、好調な経済成長と比較したときに、工業化が相対的に後退しているという側面がある。

経済成長には様々なパターンがあるものの、よく議論に挙げられるアジア型経済成長(製造業の振興により正規雇用が増えて中間層が増加し、貧困削減と市場の拡大が顕著となった)パターンと比べると、サブサハラ諸国では異なる成長パターンが進行している。こうした状況では雇用の増大と中間層の増加は限定的であり、マクロで捉えれば一般消費者向けの市場として成熟するにはまだ時間が必要となるだろう。

2016年にケニアのナイロビで開催されたTICAD6では(経済の)構造転換による製造業の発展が唱えられたものの、マクロ経済指標からは変化を読み取ることができない。ケニアではウフル大統領が発表したビッグ4という主要政策にも製造業の振興が含まれており、経済特区制度を含めた様々な取り組みを進めているものの、解決の糸口を見つけているとはいえない。2000年で約10.3%あった対GDP比の製造業付加価値額が2007年に約12.8%まで上昇した後に減少し、2017年には約7.9%まで下落している。

サブサハラアフリカの将来を左右する工業化の芽は一体どこにあるのだろうか。本記事ではケニアの大手町工場の取材を基に、改めて工業化の可能性について考察を行った。

老舗町工場の発展の軌跡

ナイロビでインフォーマル物づくりの中心地として知られるカリオバンギに位置するニャガア・メカニカル・エンジニアリング社(Nyagah Mechanical Engineering Limited)は、1984年創業の老舗町工場だ。主に農業機械や建設機械の製造、機材の部品製作、修理を行っており、順調に事業を拡大している。

ジェネラレルマネージャーを務めるディケイソン・ワシラ氏によると、創業のきっかけは当時農業機材の需給ギャップが存在し、商機を見出したことだという。

「ケニアではコーヒーの輸出が盛んなことで有名なので、1984年頃はコーヒーの栽培や処理関連の農業機材にチャンスがあると考え事業を始めました。その後ニエリ(ケニア中央部、コーヒー産地として有名)に初めての支店を出したのも多くのコーヒー農家から注文を受けたためです。今では製造する機材も多様化することに成功しており、事業を拡大させています」

ディケイソン氏によれば、製造に必要な素材は主にケニア国内やアフリカ諸国から調達するようにしており、アフリカで調達が難しいエンジンやモーター類のみクライアントと相談しつつインド、ドイツ、イタリア、あるいは日本メーカーから輸入している。

「製造する機械によって値段は異なりますが、現在の売れ筋はポッシュミル(メイズの製粉機でケニア国民食であるウガリを作るのに用いられる)で、ケニアの農村部では一般的なものです。中型のものだと製作コストが5万シリングで、卸値が10万シリングになり、一個製作するのに大体6日ほどかかります。クライアントの使い勝手によって細かく調整を行っていますからね」

同 社で製造しているポッシュミル。

事業は拡大、外資資本との提携を検討

創業からこれまで製品の多角化に成功してきたニャガア社であるが、販売部長を務めるマーガレット・ワンブグ氏は現在の販売状況を次のように分析する。

「信頼する製品を提供して顧客の口コミから新たに受注するという流れを作るのが先決ですね。今ではオンラインマーケティングに力を入れており、テレビやラジオでの広告に加えFacebookやグーグルを活用する戦略を取っています。コーヒーやお茶関連の農業機材の販売は好調ですし、一年間の保証と無料点検サービスが顧客から信頼を得る材料になっています」

マーガレット氏によれば、売り上げの大半は農業機材で、市場は拡大しているという。現在は製品の輸出を検討しており、ケニアのみならずサブサハラへと商売圏を拡大する途上にある。

マーガレット氏が指摘するマーケットの課題は粗悪で安価な模造品が作られていることだが、これまで培ってきた信頼が大きな武器となっている。無借金経営を続けているが、現在ドイツ企業から事業提携の誘いがあるため検討中だ。月商約200万シリングから400万シリングの機材を販売しており、この他に部品販売や修理代金などの収入がある。

顧客にはナイトフランク(ケニアで主要な大手デベロッパー)やマミアスシュガー(東アフリカ最大の砂糖製造メーカー)が名を連ねており、町工場としては成功の部類の入っている。マーガレット氏は「まだ現状に満足していないが、新たにキスム(西部にあるケニア第三の都市)とブンゴマ(ケニア西部の都市)に支店を作る予定があり、販売規模の拡大を図っている」と事業計画に自信を表している。

地場から見つける工業化のヒント、他産業との連関が不可欠

本記事ではケーススタディとしてニャガア社が成長してきた経緯を説明してきた。1984年当時にコーヒー関連の農業機材から出発し、その後製品の多角化を図りメイズや穀物関連の機材を製造、今では建設機械まで製造するようになった。会社は順調に拡大に成功し、支店の開設、海外企業の提携話が進んでいるなど、ケニアでは未だ数少ない成功事例の一つと言っていいだろう。

同社の成功事例を参照すれば、拡大する産業の需要を把握し、的確にピボットしてきたことが分かる。コーヒーからお茶、そしてメイズや穀物といった農業関連分野への多様化に加え、近年拡大する建設分野へも進出し、事業拡大の足掛かりを作っている。新たな分野への積極的な参入と、需要を掴むためにターゲット製品を変えていく柔軟性、これまで培ってきた工場としての信頼とネットワークがこれらの試みを支えている。

生産方法に目を向ければ、エンジンやモーターといった自社では生産できない部品については輸入品を活用しながら、自社で溶接や組み立て、部品製造といったコア技術を強化させてきた。将来的には輸入品の社内製造化を進め、完全に自前の製品をマーケットに出す戦略も模索しているだろう。

本事例が示す可能性は、ケニアの工業化にとって重要な要素を示すものである。つまり、現在政府が推し進めている様な大手外資系企業による投資に頼るものではなく、地場の需要に対して可能な限り国内調達を行い、事業のカギとなるコア技術を作り上げていき、必要ならば輸入品を活用する。国内の主要産業の拡大と共にコア技術を活かして柔軟にピボットを行い、事業の多角化と社内での技術力向上を進めていく。

現在ケニアを含めたサブサハラの主産業と言えば農業であるが、こうした連続関係を継続していくことで企業の技術力が徐々に向上し、農業関連分野で培った技術が建設業や他の製造業に頻繁に活用される段階に突入するならば、長期的な工業化の進展に期待できる。

工業化を簡易化するならば、賦存要素(元々国内にあった自然的、社会的、人的などの資源)が活用されることを背景に始まり、農耕社会から工業(産業社会)への移行を指す。本事例だけを切り取れば、周辺産業が高度化することで工業化の段階が上昇するならば、ケニアは現在工業化の入り口におり、じわりじわりと産業の高度化(農業分野→建設分野)が始まりつつあると言えるかもしれない。もちろん、単なる一事例を全体に適用することはできないが、工業化の萌芽を見出し得ることの重要性は大きい。

工業化は貿易条約や通貨レート、人口、物価、教育水準など複雑な外部条件と内部条件が組み合わさり進展していくものである。ただし、対象国で工業化の下地が存在しなければ、いくら良い外部条件に恵まれても工業化は進まない。本事例はケニアで工業化の下地が存在することを示す一抹の可能性である。

筆者:MOHAMMED NYARIGU、長谷川 将士

経済・社会

Posted by HasegawaMasashi