デジタル技術で牛を飼え!デジカウは牧畜版Wefarmとなるか

情報は必要とする人に届かなければ無用の長物となる。ケニアでは多くの牧畜民や酪農家が勘や経験だよりの生産を行っており、少ない収入と共にトライ&エラーを繰り返している。近年では企業によって大規模な養鶏場や牧場が現れ始めたものの、小規模牧畜民が牧畜を稼げる商売にするには多くの困難が存在している。

牧畜民にテクノロジーを用いて情報革命を起こそうというのは、ケニアテック界におけるトレンドの一つだ。ファーミングテックソリューションズ(Farmingtech Solutions)は2018年1月、牧畜を稼げるビジネスに変えるべく、デジカウ(Digicow)というスマホアプリをリリースした。

デジカウは小規模牧畜民に対して、それぞれの牛の発育状況や牛乳の産出量を記録することで、適切な管理を促す機能を提供している。一部の民族(たとえばトゥルカナ人)にとっては100頭の牛を見分けることは朝飯前だが、大量の牛を抱える牧畜民や新規参入者には少しハードルが高い。そこで同アプリでは携帯でパシャリと写真を撮れば個別の牛と紐づけできる機能を備えている。更には取引先情報や販売情報を一元して管理する機能を備えており、ざる勘定で商売をすることが珍しくない牧畜民がビジネスマインドを持つことをサポートしている。

デジカウに期待されるオンライン指導員の役割

ファーミングテック社のデジタルマーケティング&ICサポート部長のサイモン・ンジェンガ氏はアップデートがありつつも、デジカウには5つの機能があると説明する。

  1. 登録機能:個別の牛、個人顧客、取引先法人、従業員等の情報を登録する。
  2. 記録機能:牛乳の生産と販売、餌やり、飼育、健康状況等を記録する。
  3. レポート機能:牛乳の生産状況、財政状況、牛の健康・飼育状況などの解析データが送られる。
  4. トレーニング機能:指導マニュアルへのアクセスや専門家からの指導が受けられる。
  5. チャット機能:他の牧畜民、酪農家とチャットができる。
同社ウェブサイトのデジカウ紹介画面。現在は新たな機能がアップデートされている。© Farmingtech Solutions

サイモン氏はこれまでデータを戦略的に活用してこなかったユーザーに配慮し、同アプリでは特に簡易化に力を入れたという。

「酪農家の方達は一気に情報を提示されると混乱してしまいます。そもそも、これまでこのアプリが提供する情報を活用していなかった方達なので慣れるまで時間がかかる。このアプリの利点はマス情報を解析して、適切なアドバイスを簡単なレポートに落とし込んでユーザーに伝えることにあります」

ファーミングテック社の創設者であるぺニナ・ワンジャ氏は農村部で生まれ、幼いころから母親が酪農に悪戦苦闘する姿を見て育った。酪農を支えるのは適切な情報を活用することだと思い立ったぺニナ氏は2014年にファーミングテック社を設立、そして2018年にデジカウをリリースすることになる。

ビジネス開発部のジェミマ・ワンジク氏はデジカウが果たすべき役割を次のように説明する

「創設者のぺニナはキクユ(ナイロビ西部の地域)で農水省の農業指導員として活動していました。指導を行う中で彼女が感じた悩みは、ケニアでは圧倒的に指導員が足りておらず、指導員が農民や牧畜民に直接指導する機会が極めて限られていたことでした。デジカウに期待される役割は誰でも農業指導員からのアドバイスが得られる様な環境を作ること、デジカウがオンラインでの指導員として活躍してほしいですね」

2008年に発表された国家農業部門拡大政策(National Agricultural Sector Extension Policy)では、政府レベルから民間レベルまでを巻き込み、農業振興のためのイノベーション活用が推奨され、特にICT技術の活用が重要だとされている。政府予算が限られている状況で、デジタル技術を用いることは費用の削減と指導普及の両面で期待されている。

デジカウは誰でも簡単に使用できる様に設計されており、牧畜民は日々の活動の記録をアプリに記録できる。記録した情報はユーザーにレポートやリマインドメッセージとして反映され、活動をサポートしてくれる。

「たとえば牧畜民が餌を買いにいった日や飼育記録などを解析して、ユーザーにはSMS(ショートメッセージサービス)で牛の妊娠日、出産予定日などの重要なタイミングを知らせています。アプリに記録されたすべての記録はそのまま彼らの仕事ぶりを示す情報になり、より詳細なアドバイスが必要ならば専門家に相談することもできます」

新アプリはガラケーユーザーに対応、民族語でサポート

デジカウを利用するためにはスマートフォンが必要だが、現在でも農村部ではスマートフォンを所有している農民や牧畜民は多くない。そこでファーミングテック社はガラケー用のシステムとしてテゲア(Tegea)を開発した。これは通話によってデジカウと同じトレーニングを受けられるというものだ。

「これはオーディオで訓練が受けられるもので、訓練内容はキクユ語、ルオ語、カレンジン語等、各民族の言葉に翻訳されています。デジカウの記録機能などは使用できませんが、テゲアには非スマートフォンユーザーにも農業指導が届けるという役割があります」

デジカウの使用には10~11Mbが必要であるため、牧畜民が使用する携帯電話では容量を使い過ぎている。しかし、ファーミングテック社はユーザーがデジカウやテゲアを用いて生産性が向上できれば、娯楽用にインストールされているインスタグラムなどのアプリに取って代わることになると考えている。これは農村部のユーザーが主に50歳以上の高齢者が多いことが根拠としてある。また、同社が提供するアプリはオフラインでも使用できる仕様に調整されているため、これまでの記録データやレポートを参照するには常にオンライン接続をする必要が無い点も大きい。

デジカウは現在5000回以上ダウンロードされており、月間200人が新規登録している。また、月間のアクティブユーザーが1500人程度と、より多くのユーザーに利用されるためにテコ入れが必要な段階にある。

ジェミマ氏によれば、ケニアの農民や牧畜民は従来のやり方からデジタル技術への移行期へ差し掛かっているが、新技術の利用に抵抗があり、現状維持を好む者が多いという。また、データを活用した生産や販売にも馴染みが無く、ユーザー拡大には大きな障害が立ちふさがっている。

「牧畜民のマインドセットを変える必要があります。現在はデジカウを使い、専門的な助言を受けているユーザーの人数が増えています。また、ケニア農業畜産研究所(Kenya Agricultural & Livestock Research Organization)とパートナーシップを組み、オーディオによる指導を広げるといった工夫を進めています」

ファーミングテック社は現在2名の従業員と3名のアルバイトを雇っているが、今後の事業拡大の先駆けとして、生産販売の記録やレポートの作成だけに留まらず、牛の保険事業や酪農関連企業向けの広告事業をデジカウを通じて展開している。

ファーミングテック社は今後3年間で、ユーザーを30万人、インパクトをあたえる牛を1万頭にまで増やし、五年以内に東アフリカ諸国へ事業を拡大させる展望だ。

「ケニアは私達のテクノロジーを導入するには最適の場所です。農業はもはや年配の方や教育を受けられなかった人々のための産業ではありません。今では高等教育を受けた若者が農業に参入する時代ですから」

 デジカウの利用画面。オンライン指導員として牧畜の振興に貢献している。

デジカウは牧畜版Wefarmとなれるか

農業指導員の不足がアプリ開発の動機になるなど、デジカウは今では大手スタートアップとなった農業普及アプリWefarmと多くの共通点がある。デジカウはまだVC等から資金調達を行ってはいないが、今後事業のさらなる拡大を図るタイミングで大規模調達を行う可能性が高そうだ。

Wefarmと比較した際の懸念は、ユーザー母数の違いだろう。ケニアでは牧畜民よりも農民の数の方が多く、そもそも母集団の規模が異なる。また、牧畜民はトゥルカナ人に代表されるように伝統色が強い人々が多い傾向があり、そうしたターゲットの行動様式を変えられるかが今後のカギとなりそうだ。一方、この先ユーザーの信用スコアを基に融資を行う機能などが付け加えられれば、市場からの評価はさらに上昇するだろう。

スマホ一台、ケータイ一台で牧畜を変えられる時代。デジカウがユーザーから信頼されるアプリになれるかどうか、今後が正念場だ。

筆者:Rahab Gakuru

翻訳:長谷川 将士

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Posted by HasegawaMasashi