スラムに出没『コンドームマン』、奇妙な格好に秘められた意志

HIV、あるいはエイズはケニアに蔓延(まんえん)する大病だ。性知識が十分に伝わっていない農村部やスラムを中心に感染者は続出しており、ケニア・エイズコントロール・カウンシルが昨年発表したデータによればHIV感染者は150万人に上る。日本の感染者数が2万人程度であることを考慮すればその感染率の高さが伝わるだろう。ケニア政府や援助機関が対応に躍起になっているものの、根絶までの道は遠く険しい。

ケニアでは薬局やバー、公的機関などでエイズ撲滅のため無料コンドームが配布されているが、使用者は伸び悩んでいるといわれている。コンドームを使うことを恥ずかしがったり、女性から男性に使用を促すことをためらう慣習的問題が指摘されており、使用期限切れになるコンドームが続出している。

そんな中、ナイロビ東部のスラムにはしばしば『コンドームマン』なる、全身をコンドームで覆った奇妙な男がストリートを徘徊しているという話が筆者の耳に入ってきた。興味を抱いた筆者はすぐに彼を訪ねたが、取材からはスラムではありふれた壮絶な過去と、彼の切なる思いが浮き彫りとなった。

ストリートチルドレンからコンドームマンへ変身した理由

筆者がババドゴ(ナイロビのセンター街から北東にあたる地域)で『コンドームマン』ことケルヴィン・オニャンゴに出会った時、彼はSUREというブランドのコンドームを全身に身に着け、忙しなくストリートを往来していた。SUREはケニア政府が提供する無料コンドームで、匂いや色付きのものもある。全身をコンドームで覆った姿は嫌でも目に付くが、ここらへんのストリートではコンドームマンは一種の風物詩らしきものとなっているようだ。

ケルヴィンは誰に雇われるでもなく、ボランティアとしてコンドームマンになり切っている。彼が望むのは、性交渉により被害を受ける人々を少しでも無くすことだ。

「俺はケニア人が大好きだけど、エイズみたいな防げる病気を野放しにして被害に遭う人が増えていくのは好きじゃない。十歳になったばかりの少女が妊娠する姿を見るのも心底嫌いだ。もしお金が無くて彼らのパートナーに不誠実なことをしていると言うなら、俺がコンドームを配って望まぬ結果を阻止したい。それがコンドームマンの活動の理由だね」

コンドームで全身を覆う『コンドームマン』、ケルヴィン・オニャンゴ(中央)。

ケルヴィンは1997年にスラムの貧しい家庭で生まれ、5歳の時に両親を亡くしてからはスラムでお決まりのコースへと転げ落ちていった。地元の村で母親を埋葬した後、親戚は彼を見捨てて、誰も面倒を見てくれはしなかった。幸運なことに初等学校の卒業まではNGOが授業費の面倒を見てくれたが、生活は困窮を極めた。

治安の悪いことで有名なコロゴチョスラムの初等学校に通っていた時から、住む場所も食べる物もなく、ストリートチルドレンとなって盗みを繰り返すしか生き抜く術は残されていなかった。こうして立派な「スラムのエリート育ち」となった彼は連れと一緒に犯罪を重ね続け、地元のポリスの間では名の知れた存在となっていた。結局、友人を何人か亡くしたところでそんな人生に嫌気がさして、新しい生き方を模索するようになっていった。

「多くの人間が人生の価値ってやつをわかっちゃいないよ。自暴自棄な人生を送った後で、ようやく生きることそのものが金より大切だということ、そして持ってる富の量で人生が決まる訳じゃないってことに気付いたんだ。コンドームマンの仕事は好きさ、コンドームを配るだけじゃなく性知識を伝えることで、人を助けることが出来るんだから。こういうことは絶えず続けていかないと人はすぐ忘れてしまうかもしれないしな」

コンドームマンの活動中に休憩をとるケルヴィン。

広まらぬコンドーム、止まらない活動

ケルヴィンの本業は壊れた携帯電話を買い取り、修理して販売することだ。週5日を本業で稼ぎ、残り2日はコンドームマンに変身する。公的機関からコンドームを受け取ってはそれを身に羽織り、コミュニティの住民に配り歩く。

「ケニア政府はコンドーム配布に力を入れている。だが、彼らがターゲットにしている住民はわざわざコンドームを受け取りには来ないし、そのため使用期限切れのコンドームがどんどん出ているケースもある。もし住民が恥ずかしがってコンドームを受け取らなければ廃棄され、ただでさえ苦しい政府の懐がさらに空(から)になってしまう」

ケニア人の若い女性はHIVよりも妊娠を恐れる者が多く、学校で受け取ったコンドームを両親に渡し、使用を勧めることさえあるという。しかし、ケルヴィンによればコンドームを受け取りに来るのは男性が多い。これは配布されているコンドームが男性用であることに加え、コンドームを持っている女性は(性経験が豊富という偏見が持たれやすいため)男性から売女(ばいた)扱いされることがあり、女性は自らコンドームを受け取りに来ないためだという。絶句してしまうような現実だが、だからこそコンドームマンは活動を続けている。

ケルヴィンは現在、ボダボダ(バイクタクシー)のドライバーをターゲットにして、啓蒙を続けている。ボダボダのドライバーは売春を行うことが多いとされており、被害を防ぐにはこれが効果的なのだという。また低中所得層のドライバーの中には結婚をしないまま複数のシングルマザーと関係を持ち、セックスの見返りに住居や食事、あるいは金を得る者もいる。現実として『金のためのセックス』が頻繁に行われる低中所得層たちを病気や妊娠から守るために、ケルヴィンはコミュニティの一員として住民に働きかけ続けている。

ケルヴィンの活動はその奇抜な格好から遠巻きに見る人々も少なくないだろう。しかし、目の前のある問題に対して自発的に行動し、住民に対して積極的に働きかけることで、多くの人々を救っていることはまぎれもない事実だ。コンドームマンという一風変わった男の中身は、辛い過去から自分を変えようと立ち上がり、隣人を助けようとする強く優しい青年だった。

啓蒙(けいもう)活動に対して住民から感謝される場面。理解の輪は広がっている。

筆者:Shem Okoth

翻訳:長谷川 将士

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Posted by HasegawaMasashi