ソーラーポンプで灌漑普及を促進、農業スタートアップに見る希望と課題

サハラ以南のアフリカでは豊富な土地があるが、未だ有効に活用されていないことが課題となっている。人口急増に伴い一部の国や地域では農業に適した土地の開発がされ尽くしており、現在議論されている中心的な問題の一つは、いかに灌漑技術を普及することでこれまで開発されてこなかった土地で農業を可能にし、安定した配水で作物の収穫量を上げ、農家の収入を向上させることができるかだ。

ケニアでも農業分野の振興は、食の安全保障や経済発展を含めた政府の主要政策の一つとして進められている。多様な機関が灌漑を普及させることに注力する一方、進捗は芳しくないのが現状だ。

要因の一つとして、農村部の農家にとって灌漑に必要な設備が高価であることが挙げられる。機械や設備に頼らず灌漑を行う農家も多数存在しているが、水を汲むためにお手製の井戸から一度に汲める水の量は限られており、20キロ程度のポリタンクを何度も地下水源から地表まで汲み上げる必要がある。あるいは水源まで20~30キロ程度歩くこともざらにあり、水やりだけで一日の大半が終わる農家もいる。

ディーゼル発電機を使った水ポンプを使えば作業は大幅に効率化できるが、購入費用が大きな負担になることに加え、燃料代や修理費で継続的にコストがかかる。とにかく現金収入が乏しい農村では貯蓄に励んだとしても、入手できる農家は限られている。こうした状況を変えようと動き出したのが農業テックスタートアップのサンカルチャー(Sun Culture)だ。スタートアップ業界では既に名の知れた同社は、ソーラー発電型ポンプと点滴灌漑技術を組み合わせることで農家が一年中雨水に頼ることなく、安定した栽培を可能にさせようとしている。

農村部の『破壊的テクノロジー』

サンカルチャー社の事業評価分析を担当しているオクタヴィア・ポワリア氏によれば、サンカルチャーのパイロットプロジェクトは2013年から開始されたという。

「最初のプロジェクトはソーラー発電のポンプにバッテリーを組み合わせた製品をテストするものでした。私たちがケニアを選んだ理由は3から4エーカー程度の土地を持ち、天水に頼っている農家がとても多かったため、プロジェクトのインパクトを最大化するには最適地だと判断したからです」

サンカルチャー社で評価分析の責任者であるオクタヴィア氏。

国際連合の食糧農業機関(FAO)が2010年に発表したレポートによれば、ケニアの農村部では雨水頼りで天候の変化に左右されやすく、不安定な経済生活を余儀なくされている住民が多数存在していることが指摘されている。例えばライキピアやナロックといった乾燥地域は干ばつと洪水という両極端な自然災害に直面するリスクが高く、少しの降水量の変化で農家が容易に貧困状態へと陥ってしまう。

サンカルチャーが特に力を入れるのが課題解決型のプロダクトデザインだ。農村部に頻繁に足を運び、住民が直面する課題を解消し得る製品を提供し続けている。開発はケニアで行われており、最新型製品のレインメーカー2(The RainMaker2)は従来品よりも高い配水力とバッテリーの耐久力、そしてIoT接続の利便性を向上させた。

レインメーカー2の最大の利点は持ち運び可能なポンプで河川や水たまり、地下の貯水源等から水を汲み上げることができることだ。地下70メートルからの汲み上げも可能で、地表に比べて安定的に利用できる地下水の活用を実現させている。また、利用履歴をクラウドデータに集積することで製品のメンテナンス向上にも役立てており、故障が予期される場合にはユーザーにテキストメッセージを送信し、適切な修繕や部品の取り換えを行っている。

サンカルチャーは同社の製品を利用することで、農作物の収穫量が2倍から5倍、農家の収入が5倍から10倍、水くみや水やりに使用する時間が週に17時間ほど短縮できると発表している。スプリンクラーや配水パイプ等とあわせて使用すれば、昨日まで農地として手入れすることもままならなかった土地が、途端に現代的な技術を用いた畑と化す、ということも可能になる。

同社製品を使用している灌漑畑©SunCulture

付随機能で生活を一変、人生の質を向上

レインメーカー2は照明や発電機としても利用できる点もユニークだ。電源プラグが4つあり、電球に繋げて照明として利用したり、携帯電話の充電やTVの利用が可能となっている。

TVや電球などが付いてくるフルセットの購入には頭金9,900シリング(日本円で約1万1千円)、3,900シリングを36ヵ月ローンで支払い、三年間の保証が付いている。購入モデルはソーラー発電機の販売で有名なスタートアップ、M-KOPAのモデルと似ているが、M-KOPAが電気を提供する一方、サンカルチャーは水を提供している点が興味深い。

総額15万シリングと地方の農家には高額な点がネックだが、サンカルチャーは定期点検に力を入れる等して顧客と信頼関係を構築し、支払いが滞ることのないように努めているという。

レインメーカー2のフルセット©SunCulture。

現在同社が主に展開する地域はリフトバレー州(ケニア西部、農業に適した地域として有名)のナニュキとエルドレットの2ヵ所で、今後は更に8地域に進出を検討している。オクタヴィア氏によれば、ケニアでは地域によって顧客の属性が大きく異なり、例えばナニュキでは隣人やコミュニティ内を中心に作物を販売したり自家消費の割合が大きいが、エルドレットでは市場に販売し、作付け規模を拡大する傾向がある。地域の特色を理解し、知名度を向上させるため、サンカルチャーでは現地で活動する公的機関やNGOといった組織とのパートナーシップ構築に力を入れている。

サンカルチャー社CEOのサミール・イブラヒム氏は、「ケニアには世界の食糧庫としての大きな可能性がある」と同社事業の意義を説明する。水を十分に活用できれば農家世帯で十分な食べ物を家族に与えることができるという。

「サンカルチャーは世界中で誰もが栄養価の高い、十分な食べ物が手に入り、水のアクセスが確保されるという生活を届けるミッションに取り組んでいます。これらは人間として当然の権利であり、確保されるべきものだからです」

同社の理念の中核にあるものは、不便を解消し、生活の質を向上させることだ。レインメーカー2が普及すれば収入の向上に直結するだけではなく、頻繁に水くみに行く必要がなくなるため余暇の時間が大きく増える。また、照明機能を活用することで夜中まで勉強ができるようになり、テレビを通じて娯楽や農村の「外の世界」に触れることが簡単にできるようになる。

明確な意義と課題

サンカルチャーが掲げる理念とレインメーカー2を利用することで農家の生活が大きく変わる可能性については多くの期待が寄せられており、すでに欧州系の環境ファンド等から複数投資を受けている。規模拡大に向けて更なる資金調達を進めている一方で、サンカルチャーの前途には解決すべき課題が高い壁として横たわっている。

最大の課題はファイナンスを工夫して購入のハードルを下げようとしているものの、未だ農家にとって高額な商品であり続けている点だろう。子供の学費すら悩むことも珍しくはない農村部の世帯では、土地や作物が手元にあっても現金がない場合が多い。総額15万シリングの商品に手が出る農家がケニア全体でどの程度存在しているかは不明だが、少なくとも零細農家に手が届く価格帯にはなり得ていない。肝心のユーザー数や販売台数については非公開となっている状況が、同社製品の普及の難しさを物語っているともいえる。

また、収穫期には一気に現金が手に入るが、それ以外の時期には収入が途絶えるという農家が一般的であり、毎月安定して支払いを行える農家がどの程度存在するかも疑問だ。特に近年はケニアで気候変動による降水量や雨季の開始時期が大幅に変わることで栽培がより不安定になっているため、計画通りに収穫を行えないという農家は増加している。いつでも水にアクセスできる環境を提供することで人々の生活を安定させるという大義を抱くサンカルチャーが、気候と収穫量の変動に農家と共に翻弄され、財政状況が不安定化するリスクを抱え込まなければならないというのは一種の皮肉だ。

こうした困難はサンカルチャーが乗り越えなければならない課題であるが、それでも同社の価値を認めるステークホルダーは多数存在しており、マイクロソフトや各国援助機関と連携しており、メディアは常に同社の動向に注目している。

現場中心の開発を続けるサンカルチャー。解決すべき課題は大きいが、同社の事業が前進するたびに救われる農家も増えていくだろう。同社の挑戦が日の目を見るかどうか、今後の事業運営に注目が集まっている。

筆者:長谷川将士、Rahab Gakuru

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Posted by HasegawaMasashi