半世紀以上農村部を歩き続けてきた巨人が語る、ケニア農業の現在地とこれから

<個人商店が一大企業へ、半世紀を超える道のり>

独立前夜の1963年、英国資本の小さな個人商店はケニアで静かに歩き始めた。農家の抱える課題を解決するために現場主義を貫き、半世紀以上経った現在ではケニアを代表する農業商社としての地位を確立することとなる。後にアミラン(Amiran Kenya)としてケニアのみならず東アフリカ中で知られるようになり、社員600名を抱える一大ファミリー企業として事業を拡大中だ。長年の経験と信頼に下支えされ、ケニアで最も農業市場を熟知する企業の一つとして知られている一方、同社グループはアフリカ全域やイスラエルへも進出している。

アミランで製品・技術開発に従事するシニア農学士のティモシー・ムニョウォキ氏によれば、同社はまずビニールハウス事業から始まり、次第に事業拡大を続ける中、肥料、種子、殺虫剤、点滴灌漑などでも市場の中でシェアを確保しており、直近ではバイオガス事業へと乗り出している。

「アミランは包括的なソリューションを提供することに力を入れており、農家の方たちが欲しいと思ったものをすべて提供するようにしてきました。現場の実証実験で効果が証明された最高品質の製品を提供することで農業に関わるリスクを低下させ、収量の最大化を目指しています」

アミランで製品・技術開発を担当しているティモシー・ムニョウォキ氏。

アミラン社はビジネスとしてだけではなく、現ケニア政権が主要な4政策の柱の一つとして掲げている食の安全保障にも密接に関わっている。東アフリカの共通現象ともいえる、降水量の低下が干ばつを呼び、そして飢餓を巻き起こすというサイクルは未だ解決されておらず、緊急支援や海外からの食糧輸入で対症療法を行っているのが現状だ。アミラン社には最新技術を普及させて農業の生産性を向上し、輸入に頼らず十分な食料をケニアで生産可能にするという重大な責任があるという。

2015年に世界銀行が公開したレポートの『ケニア農業部門のリスク評価』では、農業がケニア経済の屋台骨であると指摘している。農業がGDPの4分の1を占め、農村部雇用の70%を創出し、輸出金額の65%を占め、外貨取得の60%を担う産業であることに触れつつ、経済成長と食の安全保障、そして貧困削減を実現するには農業分野の発展が欠かせないと結論付けている。しかし、零細農家が占める割合の高さや天水(自然に降る雨水)に依存する農業スタイル、そして農家の間での高い貧困率等の要因から、近年の気候変動の影響を受けやすく、外部ショックに脆弱な産業であるという留意もされている。

アミラン社ではこれらの脆弱性を回避し、農家が自立した生産を行うため、点滴灌漑やハイブリッド種の導入、良質な肥料といったテクノロジーを提供している。目標は生産を二倍にし、輸入に頼らずともケニアの食糧を国内で賄えるようにすることだ。

アミランの事業分野。農業振興のために包括的なサービスを提供している©Amiran Kenya

<農家、そしてアミランが直面する課題>

ティモシー氏によれば、たとえ収量を2倍にさせた農家でも売り先を見つけることこそが困難であるという。零細農家毎に生産販売に伴う投資や消費の量やタイミングが大きく異なっており、売り先を確保し続けなければ生産体制そのものに支障をきたす場合すらある。作物を収穫したはいいが出口戦略がなければ商品は余り、腐り、農家は大損となってしまうからだ。

「大規模農場を経営しているプロの農家ならば市場を見つける手助けは必要ありません。サポートを必要としているのはむしろこれまで専門的に農業をやってきた経験の無い零細農家です。私たちは彼らをトレーニングし、彼らの作物を売る道を共に探しています。これも私たちの重要な職務ですから」

ケニアで期待されている乾燥地における農業だが、ティモシー氏は農家単独でこれをやり遂げることは不可能だとみている。ため池の造成や水の散布に必要な設備の設置には政府や民間企業、あるいはNGOによる支援が欠かせない。アミラン社では効率的な水マネジメントを農家に教育し、天水に依存しない農業を後押ししているという。アミランではそれ以外にも生産販売に関わるトレーニングを積極的に継続しており、農家からは厚い信頼を得ている。

アミランが提供する農家トレーニングの風景©Amiran Kenya

ティモシー氏が指摘するケニア農業が直面するリスクは、気候変動とそれに伴う降水パターンの変化だ。農家は不規則な降水に苦しみ、特に天水に依存する大半の零細農家にとっては文字通り死活問題となっている。収穫量が低下する農家が続出する中、農業そのものを諦め、生きる術を失った農家も出始めているなど、早急な対策が求められている。

また、マーケットの中でシェアを確保しているアミランだが、安い中国製品にどう対抗するかという課題に直面している。大半の農家にとって値段は最大の関心事項であり、たとえコストパフォーマンスが低い製品でも安ければついつい手を出してしまう傾向がある。

「この競争に勝つためにアミランではSNSやラジオ、テレビを通じてきちんとした品質の製品を使うことの重要性を伝え続けています。また、すでに信頼を得ている自社ブランドもあるので、それらを柱に活発なマーケティングから更なる信頼を得ようと考えています」

アミラン社の強みは、どれだけ安い競合品がマーケットに入ってきても、すでにブランドとしての信用を確立している点だ。商品を売るだけにとどまらず、課題解決のために農家と共に現場を歩き待ってきた年月を覆すことは容易ではなく、地道な営業活動が現在の強固な信頼基盤となっている。

ティモシー氏はアミラン社の未来を楽観的に見ている。最近着手したバイオガス事業ではゴミから燃料を作ることができ、その先には有機農業の普及という新たなヴィジョンが待っているためだ。

「多くの人々ができるだけ化学薬品の量を抑えた安全な作物を欲していますし、この有機農法という領域には非常に期待が持てます。現状は有機農法という言葉すら知らない農家の方が大半ですが、すでにこの考えに賛同する農家が現れ始めています。私たちはケニア農業という舞台でやれることが沢山あるのです。ケニアの農家の方々とそれを一つ一つ実現させていくつもりです」

<ケニア農業の未来は明るいか>

ティモシー氏が指摘するように、ケニア農業には最先端のテクノロジーが受け入れられる素地が十分にあるだろう。近年では独自の技術を持ち込むスタートアップが次々とユニークな試みをしており、市場では新たな競合が参入している。ケニアにおいて農業は最も動きのある市場の一つでもあり、複数の日系企業が参画に向けた準備を進めている。

その一方で気候変動リスクや人口増加による土地の細分化、あるいは企業や政府による土地の収奪(Land grab)により問題の規模が拡大している。ケニア農業が持つポテンシャルは多くのステークホルダーが認めているものの、そのポテンシャルが有効に活用されていないという指摘も同じくらいに多い。

一部の企業やスタートアップではテクノロジーを用いたスマート農業を標榜(ひょうぼう)し、「イケてる産業」として若者に農業振興を訴えるなど、新たな試みが続けられている。ジョモケニヤッタ農工大学ではマッシュルームを代表に新しい作物を広めることに力を入れている。反面、人口増加に生産が追い付かず、食糧輸入は増加傾向にあり、長年使い続けた農地の劣化に頭を悩ませる農家も少なくない。

ケニア農業を取り巻く良い材料と悪い材料がめまぐるしく変化する現在だからこそ、こうした「玉虫色の産業」であることを理解しつつ、ステークホルダーごとに果たすべき役割を発見していかなければならないのかもしれない。

新たな課題が噴出する中で、アミランなど農業商社はビジネスとしてケニア農業に重要な役割を果たしている。半世紀以上ケニアを歩き続けたアミランは、次の半世紀でどのような現場を歩くか。今後も動向に注目したい。

筆者:長谷川 将士、Rahab Gakuru

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Posted by HasegawaMasashi