この世は地獄か、110円で春を売る女性の叫び

フォーマル、インフォーマルを問わず、雇用が絶望的に足りていないケニアでは、生活のためや子供を学校に行かせるために、売春で生きる糧を手に入れる女性が一定層存在する。夜中にダウンタウンを歩けば立ちんぼの女性を見つけることは容易いし、スラムでは連れ込み宿が盛況だ。

中でもマジェンゴスラムの一区画は売春のメッカとして一部では有名だ。外国人が立ち入る地域ではないため、専らスラムの住人がこぞって女性を買いにやってくる。スラムで売春は住居の中や連れ込み宿(バーと併設されていることもある)で行われることがほとんどだ。

<ウガンダからの地獄行、ケニアで待ち受けていた現実>

ザワディさん(仮名)は1986年にウガンダの小さな町からマジェンゴにやってきた。当時26歳、結婚を約束していたケニア人男性と一緒だったが、見知らぬ土地で身寄りもなかった

「一年くらい子供と一緒に暮らしていましたが、その後この子の父親はどこかへ去っていきました。初めてケニアの都市で暮らすことは本当に神経がすり減ります。当時はこの街のことなんかほとんど何も知らなかったのですから。

隣人がこの商売(売春)に誘ってきましたが、他に選択肢なんてありませんでした。乳飲み子を抱えて、この子を何とかして育てる必要がありましたから。そこから私の人生は急変しました」

ケニアに来てから、この仕事を始める経緯を語るザワディさん。

現在ザワディさんは59歳になり、4人の子供をこの仕事で育て上げた。孫が産まれ、おばあちゃんとなった今でも「現役」で、一回100シリング(約110円)から春を売り続けている。中には70シリングしか支払わない客もいるが、彼女に拒否権はない。それほど金が無いのだ。

「人生は、とても辛くて厳しいです。マジェンゴに住む、年老いた老婆にはね。仕事があるときは一日800シリングは手に入るけど、この仕事のリスクを考えればはした金だし、食事を買うのもやっとなの。マジェンゴの他の地域では家賃が2000シリングくらいなのに、この地域では4000シリングもかかる。オーナーはこの仕事のリスクを嫌がるから、家賃を上げないと釣り合わないのよ。ポリスがやってきて、強請ったりたかったりするから。

私の産んだ長女もここで同じ仕事をしているわ。この仕事で得たお金で、子どもを学校に行かせている」

いうまでもなく、リスクしか無い様な仕事だ。彼女たちを買いにやってくる男性は、金の支払いを拒否し、暴力をふるい、コンドームをつけることを拒否し、行為中にコンドームを外したりと、厄介極まりない客も少なくはない。

ザワディさん曰く、こうしたトラブルは彼女がこの仕事を始めて30年間以上、変わることなく彼女を苦しめているという。いつかはこんな仕事を辞めたいと願いつつも、生活のために仕方なく続けざるを得ないと彼女は語る。

<親子二代の仕事、娘にかける想い>

ザワディさんの長女にあたるリディアさん(仮名)は一人娘を抱えており、今年33歳になった。母と同じくこの仕事を始めてから、もう12年になる。

「娘は地方の村で生活させています。私のような人生を歩んでほしくないからです。良い時で1500シリングを稼げるときもありますが、客はトラブルを起こすし、ポリスは脅して客から金を巻き上げるから、私に入ってくるお金が無い時などざらにあります。

唯一の救いは娘が良い教育を受けられていることです。今は15歳になって、地元で高校に通っています。彼女には、彼女の人生を掴んでほしいと願っています」

娘に教育を受けさせるため、リディアさんは睡眠を4時間に切り詰め、昼夜を問わず働き詰めの毎日を送る。ほっとできる時間は服を洗濯している時と、家事をしているときだけだという。

過酷を極めた生活を支えるのは、娘がよく学び、健やかに育ち、自分の様な生活を送らないようにという悲しい希望だ。

親子二代で売春をして生活を送るリディアさん。

<夫の虐待からたどり着いた、残された生活の術(すべ)>

マジェンゴで同じく売春を生業としているレヘマさん(仮名)から話を聞くと、この商売を始めた理由を語ってくれた。レヘマさんが暮らしているのはマジェンゴとは別のスラム(カイオレ、ナイロビ東部のスラム)で、この仕事を始めて5年になる。全てのきっかけは夫の虐待だった。

「夫は子どもが止めるにも構わらず、私たち家族に酷い虐待を続けていました。子供たちの安全を確保しなければならないと思ったためカイオレまで逃れましたが、そこでの暮らしでも困難が待っていました。職がなく、子供を育てる術がなかったんです。

母親は子どもに必要なものを全て与えたいと思うものです。しかし、最低限の物すらあげられない。友人が私をマジェンゴまで連れていき、この仕事を紹介した時、覚悟を決めました。家からは遠いですが、ここなら子供に知られないでこの仕事を続けられますから」

レヘマさんは時間や内容によるが一回の仕事で百シリングから千シリング、射精一回分で100シリングが相場だ。フェラチオの場合は顔面に射精される料金分、一回150シリングと割高だ。

「私たちの主な客はマタツ(ミニバン)の運転手、土方の作業員、小売店の従業員、そしてチャンガー(違法の自家製密造酒)で酔っ払った飲んだくれ達です。そんな輩(やから)に何を望めというのですか。トラブルが無いよう祈るだけです。」

夫の虐待がきっかけでこの仕事始めたレヘマさん。自宅と仕事場の家賃に苦しんでいる。

レヘマさんはリスクを承知の上で、身を削ってでもお金を稼がなければならないときがあるという。

「私はマジェンゴの仕事場とカイオレの自宅、二ヵ所の家賃を支払わないといけません。だから、他の誰よりも働いてお金を稼がないといけないんです。私の場合、悪い時で一日1000シリング、良い時で2000シリングを稼いでいます。基本的にコンドーム無しのセックスやアナルセックスは避けていますが、力づくで強要されるときもありますし、お金がどうしても必要なときには仕方なくやる場合もあります。コンドーム無しで1500シリング、アナルセックスで2000シリング。

これが私の人生です。良いものではありませんが、『外の世界』でも貧しい者に慈悲を与えてはくれませんから」

<命がけの仕事、私の普通>

ステラさん(仮名)は28歳、マジェンゴで売春を始めてから7年になる。彼女もまた、職を得ることができず、友人からの勧めでこの仕事を始めた。

「私だってもちろん、この仕事を誇れるわけじゃない。でも、この仕事でご飯が食べられているのは確かだよ。稼ぎは大体800シリングから1500シリング。半年前に、酔っ払いに襲われて生死の境を彷徨(さまよ)ったことがある。ヤツの頭にストーブをぶち当てたおかげで部屋から抜け出して、つんざくような声で助けを呼んだ」

文字通り体を、時には命をかけてこの仕事でお金を稼ぐステラさん。この仕事を誇れることはできないが、それでも伝えたいことがあるという。

「(この仕事をしている)私たちは、誰かが勝手なイメージで思い描くような、悪い人間じゃないよ。この残酷な世界で生き延びようとしている、普通の人間だよ」

売春をしつつも「私は普通の人間」と語るステラさん。

<誰が作った、誰が為の地獄か>

今回聞き取りを行った女性の中で、売春を肯定するものは一人もいなかった。食べ物を得るため、子供を養うため、彼女たちに最後に残された手段が売春だった。

売春は需要と供給に則(のっと)った自由意志の上での選択という方もいるかもしれない。しかし、現実には女性側に選べる他の選択肢は存在していない。貧しくても売春に頼らず立派に子供を育てている女性もいるという反論があるかもしれない。しかし、そうした意見は彼女たちが抱える、空腹で先の見えない生活を何日も、あるいは十何日も送らざるを得ない状況や、子供に満足な食べ物を与えたり学校に行かせることすらできないみじめさに対して、余りに理解が希薄だ。

リスクを承知で男性の前で身をさらけ出し、時に命を奪われるというケースはスラムではままあることだ。彼女たちが迎える客も貧しく、精神に変調を来たしている者もいるためだ。警官からのいじめにも耐えつつ、毎日をやり過ごすしかない。

彼女たちに聞きたかった質問がある。貴方にとっての希望は何か、と。その質問があまりに残酷であったため結局聞けずじまいに終わってしまった。これは筆者自身の苦悩である。

筆者: 長谷川 将士、Mohhamed Nyari

経済・社会

Posted by HasegawaMasashi